連邦準備制度理事会のパウエル議長がきのう、下院の金融委員会で半年に1回の議会証言を行った。ここで同議長は、ありていに言えば今月の30日と31日に開催されるFOMC(公開市場委員会)で、景気後退を回避するために0.25%の利下げを実施する、こう述べた。もちろん具体的にこういうことを明言したわけではない。経済の不確実性が継続し、米中の貿易摩擦に伴う懸念が完全に払拭されていない現状では、「保険的意味合い」で利下げが正当化されることがある。そのために「必要に応じて行動する用意がある」と言ったのである。あとは解釈の問題になる。個人的にはトランプ大統領の執拗な利下げ要求がなかったとしても、「保険的利下げ」が検討されたのだろうか。そこが疑問として残る。

パウエル議長と政治の微妙な絡み合いが「保険」という言葉を生み出したような気がしないでもない。今年の年明け早々にトランプ大統領とパウエル議長の確執がはじまる。昨年の12月に0.25%の利上げを実施したパウエル議長に対してトランプ大統領は、「間違っている」「利下げすべきだ」「私には議長を解任する権限がある」「中国や欧州の通貨安競争に対抗するために利下げすべきだ」等々、あの手この手を使ってFRB議長に圧力をかけ続けてきた。法律によって4年の任期を保証されている議長は、大統領の批判を意に介さず雇用と物価の安定という中央銀行の責務に、表面的には忠実に専念してきたように見える。だが、議長とて人間、議会に頻繁に足を運びFRBの立場や考え方を説明、大統領に対抗するための味方づくりも行ってきた。

そうした中で「予防的利下げ」「保険的利下げ」といった考え方が地の底から滲み出るように湧き出てきた。大阪サミットでの米中首脳会談で3250億円相当の中国製品に対する新たな追加関税は見送られ、通商協議の再開が決まった。6月の雇用統計では新規雇用者数が22万4000人と予想を上回るなど、先行きに対する懸念も多少は緩和された。米国経済の足取りに多少の弱さがみえるものの、全体としては依然として緩やかに回復している。それでも今月末のFOMCで最小限の利下げが実施される見通しになっており、議長もそれを否定しなかった。仮に9月まで様子を見たとしても、タイミング的には遅くはないという気がする。「保険」とはいえ7月にあえて「行動する」裏に、個人的にはトランプ氏の圧力と折り合いをつけた議長の“苦悩”を感じるのだが……。