きのう(17日)、MMTの主導者の一人であるステファニー・ケルトン氏(ニューヨーク大学州立大学教授)の講演をきいてきた。1時間ちょっとの時間でMMTの理論や政策(処方箋)、問題点などを全て理解するのはとても無理。そんな中で記憶に焼きついたのは「インフレ」と「財政赤字」と言う言葉だった。MMTは時に財政赤字を無視して国債を増発しても構わないという理論として喧伝されているが、決してそうではない。「インフレ」と言う歯止めがあるのだ。インフレ=物価の上昇と考えていいのだが、インフレの構造は意外とわかっていない。ケルトン教授はインフレ対策という質問にうんざりしながら、「(これについて)一番勉強しているのはMMT学派だ」と強調、これと言う明確な処方箋がないこともにじませた。

一般に誤解さている最たるものは財政赤字の意味だ。家計や企業が赤字になると生活が脅かされ、企業の存続が危うくなる。だから人々は赤字は良くないと判断する。日本国の財政赤字は1000兆円を超えている。GDPの2倍以上だ。国民一人当たりに換算すると800万円から900万円近い借金を背負っている。こんな異常な事態が続けば子や孫の世代に大きな負の遺産を残すことになる。だから消費税の税率を10%に引き上げなければならない。これに対してケルトン教授はカレツキーの理論を引用しながら指摘する。「国の赤字は国民の資産とイコールです」。これは日本だけではない。アメリカでもイギリスでもフランスでも一緒だ。日本で言えば国民は借金と同時に800万円から900万円の資産を保有していることになる。

政府の赤字を減らすのは簡単だ。民間(家系と企業)の資産を減らせばいい。まだある。政府と日銀は一体だと仮定する「統一政府」の考え方をとればいい。日本政府の借金はそのほとんどが消えてしまう。にもかかわらず主流派は財政均衡だけを最優先する。この間に貧富の差は拡大し、温暖化対策は後回しにされ、世の中に不満と憤懣と紛争が拡大していく。挙げ句の果ては経済の低迷である。予算を均衡させれば実体経済の不均衡は拡大する。実体経済の均衡を優先すれば国の赤字は拡大する。だからMMTはどちらかというと左派に支持者が多い。そのMMTとて万能ではない。全ての問題を解決する魔法などあるわけがない。大事なのは「財政の均衡」か「経済の均衡」か、この機会にとことん議論することだ。