「文大統領『日本、盗っ人猛々しい』 ホワイト国除外で」――朝日新聞(ウェブ版)は、こんな見出しで、韓国の文在寅大統領による緊急国務会議の冒頭発言を報じた。
文大統領発言については、フジテレビ系サイト「FNN PRIME」も「(略)文大統領『盗っ人たけだけしい』」の見出しで報じている。一方で、複数の韓国メディアの日本語版サイトを見ると、同じ発言箇所の表現は異なっており、「盗っ人猛々しい」という表記は登場していなかった。どんな翻訳になっているのか。
「加害者の日本が居直り、大口をたたく状況を座視しない」
日本政府は2019年8月2日午前の閣議決定で、輸出管理上の「ホワイト国リスト」から韓国を除外する政令改正を決めた。この決定を受けて午後、文大統領は緊急国務会議の冒頭発言で、「とても無謀な決定であり、深い遺憾を表明する」などと述べた。
文大統領の発言については、日韓のメディアが相次いで報じた。朝日新聞は「文大統領『日本、盗っ人猛々しい』 ホワイト国除外で」、FNNは「韓国政府が反論 文大統領『盗っ人たけだけしい」と、見出しを立てた。NHK(ウェブ版)の見出しも「韓国ムン大統領 優遇除外に『日本ぬすっとたけだけしい』」となっている。
また、TBSのニュースサイトでは、見出しには「盗っ人(盗人)~」は登場しないが、本文で「今回の日本政府の措置を『盗人たけだけしい』と強く非難しました」と伝えた。
「盗人~」発言の前後の表現は、どうなっていたのか。朝日記事によると、「また、『加害者である日本が、盗っ人たけだけしく、むしろ大きな声で騒ぐ状況は絶対に座視しない』と強い言葉で非難した」。NHK記事では「さらにムン大統領は『加害者の日本がぬすっとたけだけしく大声をあげている状況を決して座視することはできない』と述べ(略)」となっている。
一方、同様の発言箇所を引用した韓国メディアの日本語ウェブ版は、どう報じたのか。聯合ニュースでは、「『加害者の日本が居直り、大口をたたく状況を座視しない』と強い口調で語った」、朝鮮日報は「『加害者である日本が居直ってむしろ大声を出す状況を決して座視しない』と話した」となっている。いずれも「居直り」表現が登場し、「盗人猛々しい」は出てこない。
聯合ニュース・朝鮮日報の過去記事に「盗人猛々しい」
では、聯合ニュースと朝鮮日報の日本語版サイトが、「盗人猛々しい」という表現を普段から使っていないのか、というとそうではなく、過去記事で見つかる。たとえば、聯合ニュース「韓国国会議長『追い込まれた安倍首相(略)』」(2月18日)記事の本文では、「『(略)私に謝罪しろとは何事か』としながら、『盗人猛々しい』と述べた」とある。朝鮮日報でも、7月11日記事(輸出優遇除外 韓国野党議員『フッ化水素(略)』)に、「日本は経済報復という盗人猛々しい態度を即剤に中断すべきだ」と出てくる。
韓国の青瓦台(大統領府)サイトには、文大統領発言の全文がハングルで紹介されている。該当箇所を複数の翻訳サイトを使って訳すと、韓国メディアの表現に近い日本語になり、「盗人~」表現は出てこない。
一方、先の聯合ニュース2月記事のハングル版で該当箇所を確認し、翻訳サイトで訳すと、「泥棒が自身の足がしびれたことで居直り」といった趣旨の日本語になった。「泥棒」の単語も登場しており、今回の文大統領発言の該当箇所では、「泥棒」の単語は見当たらない。
直訳か意訳か、意訳だとしてニュアンスがピッタリなのか少し強すぎる(弱すぎる)のか、といった問題もありそうだ。ツイッターでは、韓国語に詳しい人たちが、今回の文大統領発言の「盗人猛々しい」訳について、間違いではないか、いや違和感ない、といった意見を表明している。