厚労省が5年に一度見直すことになっている年金財政の検証結果を公表した。資料に目を通した訳ではないので、以下は新聞記事(特に日経新聞)を読んだ感想に過ぎない。率直に言って第一印象は「年金不安は解消されない」ということだ。日経新聞は冒頭に以下の表現を盛り込んだ。「日本経済のマイナス成長が続き、労働参加も進まなければ2052年度には国民年金(基礎年金)の積立金が枯渇する。厚生労働省は一定の年金水準を確保できるよう、会社員らの入る厚生年金の適用を拡大し、高齢者やパートらの加入を増やす改革に乗り出す」。なんのことはない、年金を支える加入者を増やして支給年齢を後ろ倒しにする。これを盛り込んだ改革案が来年度の通常国会に提出される予定だが、どうみても改革の中身は“弥縫策”にしかならない。

少子高齢化が急激に進んでいる。年金を受け取る受給者がふえて、これを支える現役世代が少なくなるのである。年金財政が悪化するのは当たり前だ。放置すれば2052年を待たずに基礎年金は財源が枯渇する。それを先延ばしするために年金加入者を増やして、給付は先送りする。誰でも思いつく改革だ。現行の年金制度が賦課方式を採っている以上、現役世代が少なくなれば制度そのものが破綻する。問題は破綻がいつか、というだけである。今回の検証もわかりきったことを明文化するために将来の経済成長率見通しを6通り用意し、それ合わせた財政状況を検証した。成長率も「高め」(楽観的)と「低め(悲観的)」を用意し、あとはメディアが「低め」が現実的と悲観誘導するのに任せている。

専門家が集まって行った財政検証だから、こうした手法は致し方ないのかもしれない。だが、せっかく専門家が集まって議論したのだから、国民の間に浸透している年金不安を解消するための方策を、参考程度でいいからいくつか取り上げてほしかった。例えば、賦課方式をやめて積立方式にすればどのくらいの財源が必要になるのか、あるいは年金財政を持続可能なものにするには、どの程度の経済成長率が必要なのか、といった視点である。検証結果で取り上げた成長率は0.9%からマイナス0.5%までの6通り。当然のことながら成長率が下がるにしたがって年金財政の悪化は早まる。これもわかりきている。だから「所得代替率60%」を維持するためには何%の経済成長率が必要なのか、むしろそちらを提示してほしかった。“弥縫策”ともういうべき先細りの改革案を考えるよりも、どうやって経済を成長させればいいのか、その道を模索する方が生産的な気がする。