9日付のロイター記事によると、ドイツ政府は連邦予算に含まれない形で、景気対策を講じる新たな公共団体の設立を検討しているという。なんということはない。厳格な財政規律を表向き維持しながら「影の予算」を創設し、国内経済のテコ入れを図るというわけだ。この件は前にもこの欄で触れたことがある(あのドイツが財政出動検討)。この時はブルームバーグだったが、今度はロイター。財政出動の計画が具体化してきたという続報である。国家予算の形をとらないことが、逆にドイツ国内におけるこの問題の根深さを象徴している気がする。ドイツ魂は財政規律の緩和を絶対に認めない。そんなことをすれば、厳しく、かつ執拗に財政規律を求め続けたギリシャに申し訳がたたなくなる。

それはともかくとして、反緊縮の動きが遅まきながらドイツ政府に芽生えたことは、世界経済的な観点からも貧困生活を送っている弱者救済という観点からも、歓迎すべきことだろう。もちろんドイツは、そこまでの財政出動を考えているわけではないだろう。ロイターによると「新たな投資機関の創設により、ドイツは歴史的な低水準にある借り入れコストを生かし、憲法が定める債務の制限を超えてインフラや気候変動向けの支出を拡大できる」程度だ。公共投資の財源の一部を赤字国債で賄うということだ。インフラや気候変動向けというのはアメリカの民主党左派、アンドレア・オカシオ・コルテス氏が主張する「グリーン・ニューディール」と同じ発想だ。財政規律にこだわっていては気候変動に対応できない、米民主党左派の主張はあのドイツを動かしたのかもしれない。

不法移民を排除し、米中貿易戦争を仕掛け、強いアメリカの復活を目指すトランプ大統領は、インフラ投資と減税によって景気テコ入れを図ってきた。思想や心情は民主党左派やドイツの現政権とは相容れない対極に位置している。だが、これらの人々が主張していることはトランプ大統領がやっている積極的な財政戦略と重なっている。右と左の主張がどことなく似通っている。積極財政のヒントはここにあるのかもしれない。とはいえ、イタリアでは極右の「同盟」と左派の「五つ星運動」が手を握り、反緊縮の連立政権を樹立したが、こちらは内部対立が深刻化し決裂してしまった。呉越同舟ともいうべき積極財政路線、いまのところよって立つ基盤はかなり脆弱だ。それだけにこの動きが横に広がるかどうか、とりあえず注目してみよう。