安倍改造内閣がきのう発足した。小泉進次郎氏(38)の初入閣がメディアの格好の話題となっており、改造内閣の重点施策がかき消されている気がする。小泉氏の初入閣は結構なことだと思う。将来の総理・総裁候補がポストを得てどんな働きをするのか、興味は尽きない。それはそれとして改造内閣の責務は何かと問われれば、間髪を入れずに「社会保障改革だ」と答えたい。憲法改正も日韓問題も日米関係も重要だが、国内的にこの改革は避けて通れない。再任された加藤勝信厚労相(63)、新設される「全世代型社会保障検討会議」を統括する西村康稔経済財政・再生相(56)の働きぶりに注目だ。加藤氏が竹下派、西村氏が細田派と派閥は異なるが、ポスト安倍総裁選を目指している点は一緒。日本が直面する大問題の解決に向けて競争と協調が問われる。社会保障改革が前進するかどうか、この内閣のキーポイントだ。

安倍政権は7年前、民主党の野田政権からバトンを引き継いだ。当時野田政権の最大の課題は社会保障改革だった。与野党がねじれた国会は決められない政治と揶揄され、起死回生の一手として打ち出したのが税と社会保障の一体改革だ。一体改革に伴う消費増税を当時自民党総裁だった安倍氏が受け入れ、年末に総選挙が実施された。結果はご存知の通り。安倍氏が大勝して自民党が政権に復活、長期政権が誕生したのである。政権にとって社会保養改革はある意味で“鬼門”。安倍政権も残りの任期が2年となってこの難題に取り組むわけだ。その課題を将来の総裁候補2人が担う。政治の巡り合わせというのは時に不思議だと思う。安倍首相は内閣改造にあたって「安定と挑戦」というスローガンを掲げた。麻生副総裁、菅官房長官、二階幹事長の長老留任組には「安定」を求め、加藤、西村両氏のような中堅には挑戦を促している。それを凌駕するように小泉氏も“挑む”構えを見せている。

安倍首相は改造後の記者会見で「新しい社会保障のあり方を大胆に構想していく」と抱負を語った。野田政権の前例を見るまでもなく社会保障改革はいつも官僚が主導権を握る。その最大の官庁が財務省。財政再建と国民負担を天秤にかけながら、国民の負担増に誘導する政策を生み出してきた。首相が言う「大胆」が何を意味するかわからないが、国民目線から見れば負担を軽減できるかどうか、大胆の意味づけはその一点にかかっている。団塊世代が2022年には後期高齢者の仲間入りをする。医療も介護も年金も財政の負担が飛躍的に増加する。こうした状況認識はすでに多くのメディアによって日常的に刷り込まれつつあり、「痛みを伴う改革」がなんとなく正しいような雰囲気が出来上がっている。だがそれはすべてデフレ要因である。デフレ脱却の大方針に反する。デフレから脱却するためにも「大胆な発想」は「痛みを伴う改革」の反対概念であるべきだ。