台風19号による被害は日がたつに連れて拡大している。河川の決壊、氾濫、冠水が被害としては一番多い。長野県の千曲川、宮城県の阿武隈川など1級河川が決壊して大きな被害が出ている。地震、津波、水害。自然災害が多発する日本で毎度繰り返される光景だ。気象庁は今回、台風が発生した直後から「非常に大きな台風」「災害発生の可能性が大きい」「命を守る行動を」と盛んに呼びかけていた。通信衛星やコンピューターの性能向上によって、予知能力は大幅にアップしている。それでも台風が通り過ぎてみれば日本中で河川が決壊し、多くの死者が出ている。警戒態勢の強化や未然防止体制、スーパー堤防などあの手この手を使った防災対策。それでも防げない自然災害。打つ手はないのだろうか。

テレビを見ながら気がついたことの一つ。千曲川や阿武隈川の決壊で冠水した地域は、自治体が発表しているハザードマップの危険地帯に一致しているケースが多いようだ。長野市の豊野町一帯はハザードマップで赤く塗りつぶされている。千曲川が決壊すれば冠水する可能性が高いと予知されていた。多くの住民はそのことを知っていただろう。気象庁による再三にわたる注意情報の発出。長野市をはじめ行政当局も警戒していたはずだ。それでも千曲川の決壊は突然に起こる。起こってしまえば為す術もない。反省しても後悔しても始まらない。あとは復旧に向けてみんなで協力する以外に方法はない。だから未然防止が大切なのだ。それも皆分かっている。分かっていても繰り返される。被災者にとってはこの上もなく不条理だ。

今回は予想を超えた豪雨だった。東日本大震災の時は予想を超えた津波。未然防止に向け、予想の精度を上げるべく多くの関係者が日々努力している。ハザードマップがその成果の一つだろう。それでもハザードマップ通りの地域が千曲川の決壊によって冠水している。予想は当たった。だが、当たっても地域の住民にとって何の役にも立たない。もちろん、それによって事前に避難することは可能だし、命を守るという点では大きな効果はある。最善の備えをもってしても防げない自然災害。だからと言って手を拱いているわけにはいかない。どうすればいいのだろうか。海岸や河川、崖の近くには住まない。それは考えても詮無い。レジリエンスな自然環境をどうやって作り出すか、試行錯誤を繰り返しながら挑戦し続ける以外に道はないのだろう。