韓国政府は22日の夕方、日韓のGSOMIA(日米韓の軍事情報包括保護協定)破棄を見送る決定をした。徴用工問題に端を発した日韓関係の険悪化の行き着いた先が、文在寅(ムンジェイン)大統領によるGSOMIAの破棄通告だった。文大統領の対応をみて頭をよぎったのは民主党政権時代の鳩山首相だ。普天間基地の辺野古移転絶対阻止を掲げていた同首相、「(基地の移転先は)最低でも県外」と大見得を切った。当時、飛ぶ鳥を落とす勢いだった民主党である。多くの日本人が「ひょっとすると米国と水面下で話がついているのでは」との期待感を抱いた。結果はいうまでもない。鳩山首相の“独り相撲”だった。GSOMIAの破棄決定から破棄撤回に至る韓国政府の対応をみながら、「最低でも県外」の“迷言”がデジャブーのようによみがえる。

GSOMIAは日韓だけの取り決めではない。日韓、日米、米韓が個別に協定を締結しているとはいえ、あくまでも安全保障に関する日米韓の相互協力協定なのである。それだけではない。東アジアや東南アジア、ひいては世界の安全保障に関わる問題でもある。安倍首相をはじめ日本政府は再三にわたって文政権に、「GSOMIAの破棄決定は東南アジアの安全保障情勢を見誤ったもの」と警告してきた。にもかかわらず断固として破棄の方針を譲らなかった韓国。23日の期限切れ目前に「破棄の決定」を破棄すると180度方針を転換した。米国の強烈は働きかけがあったとはいえ、破棄撤回は今後文政権に計り知れない打撃を与えるだろう。「最低でも県外」の鳩山首相はほどなく辞任に追い込まれ、民主党政権は2年後に崩壊した。

政治家の発言の重みなんていうことを今更いうつもりはない。言いたいのは国際政治の迷路のように複雑で入り組み、魑魅魍魎があの手この手を使って駆け引きしている世界で、有言実行することの難しさだ。「信頼できない日本だからGSOMIAを破棄する」。文大統領の決断は恐らく有権者の喝采を浴びたのだろう。信頼関係がないにっくき日本と、安全保障上の秘密協定を結ぶことはできない。「貿易管理政策の見直しがない限りGSOMIAは破棄する」、文大統領は拳を振り上げながら自らの決定に酔いしれたのかもしれない。隣国のこととはいえ、結果は見るも無残だ。それにひきかえ、頑としてぶれなかった安倍政権の対応は評価していい。だが、これで日韓関係が決着したわけではない。経産省の発表をめぐるすれ違いなど、双方の小競り合いはまだまだ続く。