安倍首相の肝いりでスタートした「全世代型社会保障検討会議」が昨日中間報告をまとめた。各紙の報道を読む限り年金は負担増のトーンを弱め、医療改革に勢力が注がれている印象だ。その狭間にあって介護はほとんどの課題が先送りされそうだ。日経新聞によると第2次安倍政権が発足してから首相は菅官房長官との間で、「社会保障改革は政権の最後にやろう」と確認していたのだそうだ。自民党総裁としての安倍首相の任期は21年9月。来年夏に最終答申をまとめ、年末の予算編成をへて21年の通常国会で関連法案を仕上げる。日程的に見れば首相は総裁4選を諦めているようにも見える。

それは余計だが、中間報告は社会保障改革の中でも最難関とみられている医療改革に力が入っている。窓口で支払い75歳以上の後期高齢者の診察料を、一定の所得のある人と条件をつけて2割に拡大すると明記した。紹介状なしで大病院を受診する際の負担金も、現在の一律5000円から3000円程度引き上げることも盛り込んでいる。年金制度では高齢者の就業を促進する方針を打ち出した。選択制で現在70歳までとなっている支給開始年齢の上限を75歳まで引き上げる。今年の財政検証によると支給開始年齢の引き上げや加入者拡大といった対策を講じれば、所得代替率が高まるとの試算が出ている。数理計算に基づく辻褄合わせが動き出したわけだ。

2022年度から団塊世代の後期高齢者入りが始まる。これに合わせて社会保障の費用はうなぎのぼりに上昇する。今年度の社会保障関係費用は総額124兆円である。これが2040年には190兆円に膨らむ。この費用をどうやって捻出するのか、これが検討会議に課された最大のテーマである。国民負担を拡大すれば財政は安定する。消費税をこれ以上あげられないとすれば、国民負担を増やすしか手はない。これが検討会議の底流を流れている考え方だ。消費増税と同じ発想だ。だがここにも逆進性という問題が影を落としている。幼保教育の無償化など「全世代型」の名目の影で、国民の所得格差は一段と拡大しそうな雰囲気だ。