火星の衛星フォボス=米航空宇宙局(NASA)提供

 小惑星探査機「はやぶさ2」に続く、宇宙から地球に試料を持ち帰る日本の探査計画の目標天体が、火星を周回する衛星「フォボス」に決まった。火星の衛星は人類が本格的に探査したことがなく、探査機の火星圏と地球の往復も世界初となる。宇宙航空研究開発機構(JAXA)は2024年の打ち上げ、29年の帰還を目指す。

火星衛星探査計画のプロジェクトマネジャー、川勝康弘・JAXA教授=相模原市のJAXA宇宙科学研究所で2019年8月8日、池田知広撮影

 ミッション名は火星衛星探査計画(MMX)。宇宙から試料を持ち帰る探査は「サンプルリターン」と呼ばれ、MMXは「はやぶさ」「はやぶさ2」で日本が確立したサンプルリターンの技術を継承する。

 火星は直径約23キロのフォボスと、約12キロのダイモスの二つの衛星が周回している。MMXではいずれかへ着陸する計画だったが、これまで行き先はどちらか決まっていなかった。探査機はフォボスに数時間着陸し、表面を覆っているとみられる砂を10グラム以上採取することを目指す。

 フォボスはダイモスより火星に近く、火星の重力の影響を受けやすいため探査機の燃料が多く必要になる。一方で火星から飛来した物質を多く含むと予想され、火星そのものの理解が進むことも期待される。

 火星衛星の起源には、遠方から来た小惑星が火星の重力に捕まったとする「捕獲説」と、火星に天体がぶつかってできたとする「衝突説」の二つがある。MMXは試料分析と近傍観測によって、この2説に科学的に決着をつけることを大目標とする。

 また、ダイモスについても、高分解能カメラで撮影するなど上空から観測する。

 開発中の探査機は3段式で、総開発費は464億円。フォボスを巡っては、ロシアが11年に探査機を打ち上げたが失敗に終わっている。【池田知広】