安倍首相がようやく重い腰をあげて特措法に基づく緊急事態宣言の発令に乗り出すようだ。今日中に諮問会議を開き、明日にも緊急事態を宣言するという。この問題は3月の3連休明けに小池都知事が「東京都のロックダウンをせざるを得なくなるかもしれない」と記者会見で発言したことがきっかけ。この発言を機に世間では首相が宣言すれば東京のロックダウンが可能になるかのような錯覚が広がった。小池知事は事態の深刻さを示すために都民や国民に中国やイタリア、フランスなどで実施されている「都市封鎖」を連想させたかったのかもしれない。だが特措法にはロックダウンを可能にする規定はどこにもない。それ以前に宣言で可能となる対策はすでに各自治体が任意で実施している。

小池知事がどうして宣言に拘るのかよくわからないが、北海道の鈴木知事をはじめいくつかの自治体の首長はすでに独自で各種の自粛要請を行なっている。小池知事も頻繁に会見を開いて同じような措置を発表している。最近では「接待を伴う夜の飲食」の自粛を強く求めている。このところ感染ルートがはっきりしない感染者が増えているが、その3割は夜の飲食で感染したとみられている。中堅サラリーマン以下若者世代は、こうしたところで感染するケースが多いようだ。メディアははっきりと伝えないが、バーや高級クラブ、ライブハウスなどで感染した人の中には、保健所の聞き取り調査を拒否する人もいるようだ。一部とはいえ、こうした人たちに自粛を求めるのは容易ではないだろう。

特措法に基づく宣言を出したからといって、自体が大幅に改善するわけではない。本気で感染防止をするためには、こうした飲食店の営業を強制的に禁止できる法律が必要になる。そのことはメディアも分かっているだろうが、どう言うわけか日々の報道活動の中でそうした事実がストレートに紹介されることはない。もちろん強制的に営業を止めるわけだから、業者に対する損失補償は不可欠だ。いまのままではフランスのように外出禁止も強制できない。できるのは宣言を出そうか出すまいが、「自粛の要請」だけである。新型コロナとの戦いは“戦争”である。本来ならコロナに限定した戦時法制が必要だが、平和の国・日本では誰もそれを口にしない。与党も野党もメディアも、未知なるウイルスと戦う覚悟がまるでない。