[23日 ロイター] – 年初から新型肺炎の感染拡大が報じられる中でも、欧米市場では株式相場の騰勢が続いた。アジア固有の問題との見方が強かったためだ。 

米国のS&P500指数.SPXやドイツのDAX指数.GDAXIが過去最高値を記録したのは、それぞれ2月19日と2月17日。中国湖北省武漢市における経済封鎖開始の約1カ月後だ。ドル/円JPY=EBSが112円23銭の年初来高値を記録したのも2月20日と時期は近い。 

だが、欧州でも感染拡大の勢いが増すにつれ、市場全体がリスク回避に傾いた。米国の長期金利US10YT=RRの急低下を受けて、外為市場では当初ドル安が進行し、ドル/円も3月9日に4年ぶりの安値101円18銭まで下落した。 

しかし、市場の緊張が高まると、次第にドルの流動性懸念が台頭。これが、外為スポット市場でもドル高に波及し、ドル/円は3月24日に111円71銭までの急反発を見た。 

もっとも、米連邦準備理事会(FRB)などによって矢継ぎ早に講じられたドルの流動性改善策が奏功し、3月末を通過する頃にはドル高も和らいだ。結局、ドル/円は105円割れも110円大台も定着しておらず、ここからの展開が再び読みづらくなった。 

<強さ際立つG10・経常黒字・非資源国通貨> 

今年これからの為替相場を予想する上で、G10通貨(円、ユーロ、ポンド、豪ドル、ニュージーランドドル、スイスフラン、スウェーデンクローナ、ノルウェークローネ、加ドル、米ドル)か新興国通貨か、経常黒字国通貨か赤字国通貨か、資源国通貨か非資源国通貨かという3つの切り口で分類するとわかりやすい。 

未曾有の経済危機に直面している状況では、個別の国や通貨のファンダメンタルズ分析を積み上げてパフォーマンスを予想するボトムアップより、属性が近いグループごとの相対的な強弱を予想するトップダウンの方が整理しやすいからだ。 

そこで、米S&P500指数が高値を記録した2月19日を起算日として4月17日時点の対ドル変化率をみると、ドルよりも上昇したのは、G10かつ経常黒字かつ非資源国通貨のグループだ。 

3%以上も値上がりした円を筆頭にスイスフラン、ユーロと続く。唯一、スウェーデンクローナは2%下落しているが、それでも下げ幅は限定的だ。 

本来、米国は経常赤字国であり、そのファイナンスを主に対内証券投資によって賄い、通貨価値を維持している。しかし、米国ではゼロ金利政策と上限を定めない資産買い入れが続くと思われ、低金利が長らく続く見込みだ。このため、信用不安が台頭したり、四半期末が迫るなど、ドルに対する需要が高まる場面を除けば、こうした通貨に対して緩やかなドル安が進む可能性が高いだろう。 

<弱い新興・資源国通貨> 

一方、その他の通貨は、対ドルで下落したままとなっている。このことは、ドルの流動性懸念が和らいだ後も、世界的な大流行(パンデミック)に伴う緊張が残る限り、外為市場でのドルの優位性が、簡単に崩れるわけでもないことを示唆する。 

ただし、注目すべきなのは、対ドルでの下落率にもいくつかの特徴がみられる点だ。例えば、下落率の上位には軒並み資源国通貨が並んでいるが、同じ資源国通貨の中であれば、豪ドルやノルウェークローネといったG10通貨よりも新興国通貨の下げ幅の方が大きい。 

また、同じ新興国かつ資源国通貨をみると、ロシアルーブルといった経常黒字国よりも南アフリカランド、ブラジルレアルといった経常赤字国通貨の下げ幅の方が大きい。反対に、新興国通貨の中でも、台湾ドルや韓国ウォン、タイバーツのように経常黒字かつ非資源国通貨の下げ幅は相対的に小さい。中には台湾ドルのように円、スイスフラン、ユーロに続き、新興国通貨としては唯一対ドルで上昇した通貨もみられるほどだ。 

<ドルの優位性にも例外あり> 

国際通貨基金(IMF)は今月14日、最新の世界経済見通しを公表した。その中で、足元の状況をGreat Lockdown(大封鎖)と銘打った上、今年の世界経済が3%のマイナス成長に陥るとの予想を示した。また、新型肺炎の世界的なパンデミックが年後半に終息するとの前提を置く基本シナリオでは、来年の成長率を5.8%のプラス成長とした。 

しかし、IMFも不確実性が非常に高いことを指摘している通り、パンデミックの終息時期は全く予断を許さない。現段階では経済活動の停滞が長期化する可能性がかなり高いように思われる。この見方に立てば、外為市場では引き続きドルの優位性が保たれそうだ。クレジットスプレッド(利回り格差)が拡大に転じるといった信用不安が高まれば、再びドルが全面高となる場面もみられよう。 

ただ、その場合はFRBを中心にドルの流動性対策が講じられるはずだ。過去2カ月間の値動きと同様に、乱高下しながらもドルは、円やスイスフラン、ユーロに対し、下落する可能性が高い。 

中でも好況時の正常化を見送ってきた結果、金融、財政政策ともに妙案に乏しい日本では、デフレ回帰の懸念が現実味を帯びる。円が上昇しやすい環境と言え、特にクロス円の下げ幅が広がりそうだ。ドル/円も年末に向け、少なくとも105円割れが定着するのではないか。 

また、多くの通貨が対ドルでの続落を余儀なくされよう。その際、「新興国」、「経常赤字国」、「資源国」といった脆弱さを示す要素を数多く抱える通貨ほど下げ幅が広がりそうだ。似た物同士の通貨を比較する場合は、経常赤字の規模や輸出に占める一次産品比率が判断材料となる。 

一方、可能性が低いとは言え、パンデミックの早期終息が見込める楽観シナリオにも望みはある。無論、そうなればリスクオン相場に転じるとみられ、これまでの通貨の強弱が逆転するだろう。外為市場ではドルも円も安くなると考えられ、クロス円での顕著な上昇が進みそうだ。 

日米金利差もいくらか機能すると考えられ、ドル/円も110円の大台を回復し、今年の高値(112円23銭)更新程度は視界に入ってくるだろう。 

*本稿は、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいています。 内田氏

*内田稔氏は、三菱UFJ銀行グローバルマーケットリサーチのチーフアナリスト。慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、東京銀行(現・三菱UFJ銀行)に入行。一貫して外国為替業務に携わり、2012年より現職。J-money誌の東京外国為替市場調査ファンダメンタルズ分析部門では2013年から19年まで個人ランキング1位。 

編集:田巻一彦