接触機会の8割削減で一躍有名になった北海道大学の西浦博教授。別名は“8割おじさん”らしい。丸々とした顔立ちや体型からそう呼ばれているようだが、これは親しみをこめた愛称だろう。個人的には政府・専門家会議が推進してきた接触機会の「8割削減」は過剰自粛だったのではないか、懐疑的な見方をしている。というわけで“8割おじさん”にもあまり良い印象は持っていなかった。それはそれとして、きのう東洋経済オンラインで配信された「8割おじさん・西浦教授が語る『コロナ新事実』」は極めて面白い内容だった。数理免疫学というのは新しい学問だが、西浦教授が語るこの世界は実に興味深い。

今回のパンデミックで一躍有名になったのが実効再生産数だ。個人的にもこれが1を下回っているのに緊急事態宣言を発令し、接触機会を8割削減するというやり方はあまりにも厳しすぎると考えていた。西浦教授によると8割削減を導き出した方程式のパラメーターは、集団免疫率が60%、これに対応した実効再生産数は2.5に設定されているという。なぜか?これが数理免疫学の趨勢だからだ。集団免疫率が60%になるとウイルスの新たな感染は止まる。スウェーデンのコロナ対策はこの考え方が柱になっており、経済活動を維持しつつ、無理のない範囲で感染防止対策を講じている。

今回のパンデミックを受けて集団免疫率の再計算が行われている。最新の研究成果によるとその値は20%〜40%程度に下がっているという。事実なら感染予防策を諦め、自然体でピークアウトを待ったほうが特だという判断も出てくる。新規感染者や死亡者数が日本をはるかに上回っている欧米はここにきて、先を競うようにロックダウンを解除し、経済活動の再開を急いでいる。石橋を叩く日本とは対照的だ。その裏に「集団免疫率は低い」との認識があれば、経済活動の再開を急ぐ理由がわかるような気がする。日本の集団免疫率はいまのところ1%程度だ。20%に近づきつつある欧米が日本に交流拡大を求めてきたらどうなるのか?西浦教授も「今後は国際政治的な力学」も入ってくると指摘する。日本にとっては一難去ってまた一難といったところだ。