NTTドコモの電子決済サービスをめぐる失態は、天下のドコモのI T社会に対する認識の甘さを露呈した。失った信用は簡単には取り戻せないだろう。ドコモといえばI T社会をリードするリーディングカンパニーである。そのドコモが金融機関からの資金の不正な引き出しを許した。ペイペイやauペイなど電子決済サービスは競争が激しい。出遅れたドコモには焦りがあったのだろう。きのう記者会見した丸山副社長は、「ドコモ口座の作成で本人確認が不十分だったのが原因だと考えている」と謝罪した。二段階認証などセキュリティーを厳しくするのかこの業界に限らず、インターネットでビジネスを展開する企業にとっては常識だ。そんなことは百も承知のドコモが、その常識を無視した。今回の事件、ドコモにとっては深刻だ。

ドコモ口座に紐付け可能な銀行は全国に35行ある。今回被害にあったのはいまのところ、このうちの11行、件数にして66件だ。無断で引き出された金額は約1800万円。今後調査が進めばもっと増えるかもしれない。問題なのは被害にあった顧客は誰一人「ドコモ口座」を開設していなかったことだ。知らないうちに自分の口座から預金が引き出されたことになる。ドコモ口座を開設した犯人は、この口座に紐付け可能な銀行口座の口座番号と暗証番号を事前に盗んでいたことになる。責任はドコモだけにあるわけではない。いつの間にか顧客の口座番号や暗証番号が盗まれた銀行の口座管理も問題になる。仮に犯人がその番号をインターネット上でフィッシングしたとしても、銀行の口座管理といった面で新たな問題を惹起することになる。

全体像が判明しているわけではないが、どうやらドコモはメールアドレスさえあれば口座開設が可能だったようだ。本人確認といった煩わしい手続きは必要ない。簡単に開設できて資金の出し入れも自由に行える。先行するソフトバンクやauを追随するためとはいえ、いかにも安直だ。かんぽ生命の不正勧誘に似た体質を感じるといったら大袈裟だろうか。電電公社として日の丸をつけて民間企業に君臨した公社体質が依然として残っている。追い上げられ、あるいは追い上げようとして、自らはまった落とし穴のようなものだ。ドコモに限らない。ネット上での資金のやり取りには至るところに罠が仕掛けられている。にもかかわらず、日本の銀行は安全と思い込んでいる人が多い。かつてはそうだった。だがいまは違う。個人的にもインターネットバンキングを使っている。自戒を込めてネット上で自分の口座を確認した。