菅義偉自民党新総裁が誕生した。明日の首班指名選挙を経て内閣総理大臣に就任する。秋田の貧農の長男に生まれ志を抱いて上京。38歳で横浜市会議員、47歳で国会議員になった。その青年が71歳にして「伝統ある自民党」の総裁に就任し、明日、総理に就任する。田中角栄ばりの立身出世物語に見えるが、その裏には鬼のように働き、自分を殺して親分に支え、いつの間にか親分を凌駕する権力を身につける。今の政治家には珍しい叩き上げだが、庶民派と思しき印象の裏に「剛腕」と呼ばれる権力者の実像を隠し持つ政治家でもある。自分を殺して黙々と目の前の課題を処理する。実務能力に長けていることが菅新総裁の強みでもある。安倍政治の継承を堂々と表看板にしている。だが1年もすれば換骨奪胎して菅政治に生まれ替っているかもしれない。そこが一つの見どころでもある。

総裁選の中で折りに触れて強調したのが「自助・共助・公助、そして絆」である。看板としての派手さはないが、いかにも実務に通じた政治家といった印象を受ける。福祉とか社会保障政策につきものの定番ともいうべきフレーズだ。一見わかりやすいがその実態は意外に難解でもある。竹下元総理の名言に「言語明瞭、意味不明」というのがある。その轍を踏まないことを願う。無謀と知りながら新総裁の思いを代弁すれば、自助は「自己責任」、共助は「市場主義」、公助は「セイフティーネット」といったところか。もっと言えば「働かざるもの食うべからず」の自助。「強いものをより強くし、その成果が弱いものに滴り落ちる」トリクルダウンの共助。そして、ラストリゾートとしての政府がセイフティーネットで国民を守る。これが公助だ。何のことはない新市場主義をベースにした安倍政治の継承なのだ。

それを実現するために新総裁はさらに強調する。「役所の縦割り」、「既得権益」、「先例主義」、「こうしたものを打倒して規制改革をしっかり進めていきたい」。聖域なき改革に取り組んだ安倍政権を彷彿とさせる。安倍政治の継承を表看板にしているのだから、当然といえば当然の主張である。だが、ちょっと待て。安倍政治終焉のきっかけはコロナだが、経済政策はもっと前から行き詰まっていた。原因は新市場主義だ。G D Pは低迷し、所得格差が拡大した。ここに手をつけない限りウィズ・コロナで日本経済が再生することはないだろう。党内の5派閥が支援する新総裁である。姑・小姑がウジャウジャいる。とりあえず支援者の意見を聞くフリをする。そして、いずれかの時点で剛腕を発揮して切り捨てる。気がついてみればいつの間にか民衆に寄り添う菅政権が出来上がる。権力構造の換骨奪胎だ。そんなこと無理に決まっている、ダヨネ・・・。