日本学術会議の任命拒否をめぐって賛否両論が渦巻いている。菅首相が推薦名簿を見ていなかったとの発言を受けて、批判派はここぞとばかりに政権というか菅首相批判で勢いづいている。日経新聞によると大西隆元学術会議会長は「選考基準と違う基準を適用し、拒否したとすれば日本学術会議法違反になる」と批判し、任命拒否は「学問の自由」への政治介入と問題視する。東大の五神真学長は9日に「同会議の要請(6名の任命復活など)への真摯な対応を政府に望む」との声明を発表した。法政の田中優子総長は5日の声明で「首相が研究の『質』によって任命判断するのは不可能」と表明している。新生立憲民主党をはじめ野党各党も政府批判を強めている。いずれも任命拒否をめぐる手続き論に力点を置いているのが特徴で、学術会議の活動の中身をめぐる指摘はほとんどない。
受けて立つ政府与党の対応は「行政改革の対象」と強調する河野行革担当相の“脅し”とも取れる発言を別にすれば、「法律に基づいて適正に処理」「任命の考え方には変わりはない」「学問の自由とは別問題」など、淡々と事実関係を説明する程度にとどめている。見方によっては冷淡ともいえるが、6名を任命しなかった理由など個別に説明しようがないのも事実だろう。そんな中できょうの日経新聞に甘利明氏のインタビューが載っている。同氏は自民党の税制調査会長だが、肩書きは「自民党ルール形成戦略議員連盟会長」となっている。どんな活動をしているか知らないが、同氏は学術会議側の問題点を具体的に指摘する。例えば学問の自由について「国益に沿った存在でいてもらいたいから国が予算を拠出している。期待に十分応えているかを自問してほしい」と指摘する。
学術会議は戦争に協力した反省から「戦争を目的とする科学研究には絶対従わない決意」(1950年)、「軍事目的のための科学研究を行わない」(1967年)との方針を公表している。これに関連して甘利氏は「中国科学技術協会と研究者の交流などで協力する覚書を結んでいる」と批判する。中国共産党は「軍民融合」を掲げ、「民間技術者は軍事の技術者と同等との意識を持って取り組む」(日経新聞)ことを義務付けている。甘利氏ならずとも「日本はダメで中国ならいいのか」、言わずもがななことを言いたくなる。議論は最初から噛み合っていないのだが、今回の問題を遠巻きに眺めながらある評論家の発言を思い出した。9月16日、YouTubeの番組で某氏は言った。「菅降ろしはすでに始まっている」と。菅政権が誕生したその日である。仮にこれが事実なら今回の問題、「学問の自由」とは全く関係がない。そんなことを知ってかしらずか、論戦に参加する識者やメディア。ひょっとすると彼ら彼女らは「利用されているのかもしれない」、ふっとそんな気がした。
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