注目された2つの判決がきのう最高裁判所で言い渡された。非正規雇用者が起こした「われわれにも退職金やボーナスを支給せよ」との要求に、「(支払わなくても)不合理とは言えない」と最高裁が最終判断を下したのである。無情で非常な判決だが原告は従う以外に道がない。半面、経営側はきっと胸を撫で下ろしていることだろう。庶民感覚というか、個人的な感情でいえば不当で不服で不満いっぱいの判決である。正規社員と同等とまでは言わなくても、せめて高裁が示したなにがしかの金額を支払うべきではないか。原告同様に今回の判決を不当判決と糾弾したくなる。政治的にはようやく同一労働同一賃金が動き出した。少子高齢化で雇用形態も変わりはじめている。同一労働同一賃金は当たり前だと思う。だが現実はそんな当たり前の状態のはるか以前でウロチョロしている。

2つの判決はボーナスが争点となった「大阪医科薬科大訴訟」と東京メトロ子会社の「メトロコマース訴訟」。ボーナスと退職金と争点は異なっているものの、訴訟の趣旨は同じだ。朝日新聞によると大阪医科薬科大訴訟では、ボーナスをほぼ一律の支給率で正職員に出していたことに注目。仕事内容も成績もボーナス支給率に連動していないなら、働いたこと自体が重要。そう判断して、「同じようにフルタイムで働くアルバイト職員の原告にも支給すべきだと結論付けた」。キーワードは一律。同じ労働なのだから「非正規雇用者にもボーナスを出すべきだ」。論理は単純で明解のようにみえる。これに対して第三小法廷(宮崎裕子裁判長)は、アルバイトの原告と正職員との「仕事内容の違い」に焦点を当てる。「原告と違い、正職員には病理解剖に関する遺族対応や毒劇物などの試薬管理がある」と指摘する。要するに同一労働同一賃金は「同一身分」が前提になるという論理だ。

専門家の解説を読むと「同一身分」とは①業務内容②責任③配置転換④その他の事情に分類される。その他には正社員への登用制度があるかないか、労働組合やその他労使間での交渉状況、経営状況など多様な要素が含まれる。終身雇用が崩壊し「ジョブ型雇用」に移行する過程で一気に同一労働同一賃金を認めると、訴訟パニックが起こる可能性があると指摘する専門家もいる。被雇用者の賃金を増やすとその分は正規雇用者の賃金を減らさざるを得ない企業が大半のようだ。個人的には内部留保に手をつけろと言いたくなるのだが、企業がすべて潤沢な内部留保を抱えているわけではない。裁判所が賃金に介入する前に経営者が判断すべき問題のような気もする。旧態依然とした労働慣行が残っている中で、掛け声はともかくとして同一労働同一賃金の道のりは険しく長いということだろう。