菅政権が早くも発足1カ月を迎えた。この間デジタル庁の設置、携帯料金の引き下げ、不妊治療への健康保険適用、各国首脳との電話会談など、矢継ぎ早に指示を繰り出してきた。まさに「国民のために働く内閣」の様相である。安倍政治の継承を掲げながら、個別の政策で独自色を発揮しようとしている。目指すべき国家理念が先行した安倍前政権に比べると、コツコツと実績を積み上げる課題解決型の仕事師内閣といっていい。半面、「自助、共助、公助、そして絆だ」とぶち上げた理想とすべき社会像の肉付けは乏しい。半面、そのための手段ともいうべき「役所の縦割り」、「既得権益」、「先例主義」の排除はいたるところに顔を見せている。日本学術会議の指名拒否問題は既得権と先例主義排除の試金石になっている。
菅首相は企業経営者や学識経験者、ジャーナリストや評論家、外国籍の知識人など暇を見つけては面識のある人々と会っているようだ。食事をしたりお茶を飲んだり面談の形式は様々で、気心の知れた人々との意見交換を優先している。メディアの報じる情報を見る限り、面談に応じている顔ぶれは多彩。デジタル庁の設置や地方金融機関の統廃合、中小企業の再編といった微妙な問題も、こうした意見交換の中から浮上してきている面もあるようだ。そこが透けて見えるところが菅首相の特徴でもある。自分なりに温めてきたアイデアというよりも、意見交換の中で浮上する政策課題に優先受順位をつけながらタイムリーに政策発動している印象を受ける。そんな中で、トランプ大統領のコロナ感染見舞いを英語でツイートしたが、これには身内の与党内から「表現が拙い」とクレームがついた。良きにつけ悪きにつけ、叩き上げ宰相の面目躍如といったところか。
さて、この宰相のこれから先をどう見ればいいのだろうか。個人的には期待半分、懸念半分といったところか。もっと正直に言えば期待感は強いのだが、菅首相を支える支持層はどこまで本気でこの宰相を支えるのか、一抹の不安感が付きまとっている。自民党総裁選では派閥の圧倒的な支持を得た。だがこれは菅首相の地力ではないだろう。前首相の思わぬ退陣と安倍政治の継承を掲げた安心感が、雪崩をうって菅氏を宰相に押し上げた。来るべき総選挙で大勝しない限り、来年9月の任期は乗り越えられないだろう。そのためには実績がいる。結果を求める菅首相のことを河野規制担当大臣は「せっかち」と表現する。元々せっかちな質かもしれない。だが、せっかちに成果を求めても求心力はつかない。米国も中国も韓国も北朝鮮も国内情勢は混沌としている。政治的に一番安定しているのは日本である。じっくり世界の政情を見極めるのも手だろう。急いては事を仕損じる。
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