先週、公安委員会の召集通知に応じてきた。公安委員会といって悪いことをしたわけではない。運転免許の更新に必要な「高齢者講習」を受けてきたのだ。こういう制度があることは知っていた。だが、自分が対象になるという実感はなかった。受講して分かったこと。それは思っている以上に“老い”が進んでいるという現実だ。「いつまでも若い」「まだまだ大丈夫」、そんな自分勝手な思いを視力検査が打ち砕く。動体視力はなんと0.1。暗くなるともっと悪くなる。薄々感じていたが、ブレーキを踏むタイミングがなんとなく遅くなっている。動体視力が衰えているのだ。脅しのような説明の後に講師がやんわりと追加する。「もうお分かりですよね。反応が鈍くなっています。スピードは出来るだけ落としてください」。それでもまだ、すんなりとは受け入れない自分がいる。頭の中で考えていることと体は相変わらず乖離している。

講習はいきなり始まった。講師が4枚のパネルを掲げる。1枚のパネルに4つのイラストが張り付いている。「以下、全部で16個のイラストをお見せします。出来るだけ覚えてください」。掲示されたパネルを必死に眺める。頭の中でいま見た画像を繰り返して再確認する。パネルは次々と変わっていく。「以上です。あとでいま見たものを全部書いてもらいます」、そう言って講師は次の講習テーマに移っていく。しばらくすると「画像、記憶していますか」、講師がさりげなく問いかける。出席者の間に不安が広がる。個人的には16個のうちこの時点で思い出せたのはたったの4個。我ながら焦る。「何がありましたが」、講師の問いかけに出席者が覚えた画像を答える。それでもまだ出てこないイラストがいくつか残る。「全部覚えられませんよね。もう一度お見せします。これが最後です」。そういって4枚のパネルを再度見せてくれた。

何を隠そう認知機能検査である。本番の免許証更新の際に実施されるテストの前触れなのだが、今更ながら自分の認知機能の衰えに愕然とする。遠い過去の記憶は覚えているが、直近に目の前起こったことが記憶できない。パソコンに例えるならキャッシュ機能の劣化である。車の運転は時々刻々と変化する目の前の現実に素早く対応する作業である。一番大事なのは認知機能。年をとるとその機能が衰える。だからブレーキとアクセルを踏み間違えても気がつかない。クワバラクワバラである。それでもまだ運転免許を自主返上するほどではないと思っている。実技講習は無難にパス。体で覚えている運転技術にさしたる衰えはないと自負する。それでも咄嗟の判断に一抹の不安が残る。「これから先スピードを諦めるしかない」、自分に言い聞かせながら講習を終える。