菅首相が初めての所信表明演説で温室効果ガスの排出量を、2050年にゼロにすると宣言した。遅きに失した感はあるが「脱炭素化社会」、グリーンリカバリーに向けて日本もようやく動き出した。すでに世界の120カ国が「2050年ゼロ」を宣言している。先進7カ国で宣言をしていないのは日米の2カ国だけだった。民主党のバイデン候補は大統領選の公約として「2050年ゼロ」を打ち出している。日本としてはいま宣言しないとタイミングを失する瀬戸際だった。梶山経済産業相、小泉環境相の強力な進言があったと新聞に書いてある。首相は「このために2人を留任させた」と発言している。どちらでもいいが、遅まきながらグリーンリカバリーが政策の前面に踊り出てきた。環境先進国だった日本はいまや世界に遅れをとっている。その日本がおっとりと世界の後追いを始めることになる。

グリーンリカバリーを牽引してきたのはE Uだ。朝日新聞によると「英国、フランス、スウェーデンなどがすでに『実質ゼロ』を法制化している。欧州連合(EU)は昨年12月、『実質ゼロ』に向けた行動計画を取りまとめた『欧州グリーンディール』を発表した」、「87−93%を省エネや排出削減で、7−13%を植林などによる吸収で達成するとしている」。世界のCO2排出量の3割を占める中国。習近平総書記は2060年までに実質排出量をゼロにするとすでに宣言している。現在行われている5中全会(第19期中央委員会第5期全体会議)で具体策の検討が行われている。なにごとも米国追随の日本。まして安倍首相とトランプ大統領の絆は強かった。パリ協定離脱を推進するトランプ大統領に遠慮してゼロ宣言を先送りしてきたとでもいうのだろうか。環境リーダの面影はどこにもない。後追いしかできない日本が衰退するのは道理か。

遅まきの宣言に経済界は困惑している。経団連の中西会長(日立製作所会長)は「達成が極めて困難な挑戦」と早くも予防線を張っている。個人的には日本経済がデフレから脱出できない要因の一つは、企業経営者のチャレンジ精神の喪失にあると考えている。かつて財界は環境政策で世界をリードしてきた。その財界はいまやリスクの伴う投資には手を出さず、コツコツと小銭をため込む(内部留保)守銭奴に成り下がっている。なんともおぞましい限りだ。「困難な挑戦」であることは間違い無い。だが、なぜその困難に「達成が極めて困難」と大仰に予防線を貼らないといけないのか。かつて日本の経営者には「ピンチはチャンス」という意気込みがあった。いまは保身しかない。任命拒否が学問の自由を侵害すると嘯く学者、政府に言われないと値下げ競争を回避する通信会社、それを擁護するメディア。日本中が性根を入れ替えないとグリーンリカバリーなんてとても無理だ。