アメリカ大統領選挙は何だったのか、表面的な数字だけだがちょっと調べてみた。メディアの報道を拾ってみただけで、今回の選挙の凄まじいエネルギーが改めて伝わってきた。バイデン、トランプ両候補が獲得した票数は現時点でおおよそバイデン氏が7400万票、トランプ氏が7100万票といわれている。その差300万票は前回と変わらない。ただし選挙人の獲得人数は279対214(NHK調べ、9日10:52現在)で、バイデン氏が過半数を上回っている。前回とは正反対の結果だ。驚くのは期日前投票。フロリダ大学のマイケル・マクドネル教授の推計によると総数は1億117万票に達する。テキサス州は期日前投票だけで前回の投票総数を上回っている。フロリダ、ジョージア、ノースカロライナは前回の9割を超え、事前投票全体では前回投票総数の7割を占めている(朝日新聞調べ)。コロナ禍とはいえ、凄まじい数の事前投票が行われた。このうちのかなりの部分が郵便投票とみられている。

投票総数がまた凄い。米国の人口は3億2000万人である。有権者となる18歳以上人口は2億5000万人超。ここから市民権のない人、犯罪などで選挙権を失った人などが差し引かれ、残った者に投票権が付与される。その上で市民は自ら居住している地域で有権者登録をしなければならない。日本と違って投票用紙が市役所から郵送されてくることはない。こうして固まった有権者の総数は2億4000万人と同教授は推計する。このうちの1億6000万人が投票した。投票率は67%になる。前回(60%)を大きく上回った。70%に迫る投票率というのは史上空前の高さである。今回の選挙戦を通してメディアが熱心に伝えたのは、米国内の対立と喧騒だった。こうした報道をみると一般の視聴者や読者は、世界のリーダだったアメリアが分断され、人種差別と暴動が日常化する野蛮な国に転落しつつあると感じたと思う。個人的にはスーパーパワーの凋落、そんな印象が強かった。

だが見方を変えれば米国の有権者はこの選挙を通じてコロナ対策、人種問題、BLM(Black Lives Matter)、差別と格差の拡大、中国、北朝鮮、同盟国との関係など、米国を取り巻く様々な問題に向き合った。その上で、バイデンかトランプか、激しくいがみ合い、悩み、苦しみ、衝突を繰り返しながら、どちらが次の大統領として適任か、結論を出した。結果的にはバイデン氏が勝ったが、その差は僅差でしかない。勝敗以上に価値があるのは史上空前の高投票率ではないだろうか。トランプ派もバイデン派も、アメリカはこれから先どうあるべきか、膨大なエネルギーを費やして論争に明け暮れたのである。これを分断と見るか、トランプ流のMake America Great Againに向けた生みの苦しみと見るか、解釈は分かれるだろう。個人的には不平も不満も言わなくなった日本人より、アメリカ人の方がエネルギーに溢れている気がした。大統領も大事だが、アメリカにはまだ大きな可能性があるのではないか、そんな気がした。