今日のトピックスはコロナワクチンの治験結果発表だ。これを受けてN Yダウが暴騰した。コロナとワクチン開発、第3波とみられる感染拡大が迫り来る中で、株価は人類の不安と欲望を映し出しているようだ。治験で「有効性が90%を超えた」とされるものの、それでもマスク以上に有効かどうか、依然として判然としない。ワクチン開発が大きく前進していることは疑いないだろう。だが、実用化までの道のりは平坦ではない気がする。昨日の発表の主体はファイザー。ドイツのバイオ医薬ベンチャーであるビオンテックと共同開発しているワクチンの臨床試験(治験)で、感染を防ぐ有効率が90%を超えたと発表した。第3波の感染拡大を前に心強い治験データだ。米国立アレルギー感染症研究所のファウチ所長も、90%を超える有効性は「実に並外れている」と評価した。世界中で期待感が高まるのは当然だろう。

朗報に水を差すつもりは全くないが、ニュースを詳細に読むと不安もわいてくる。発表は「治験参加者のうち94人が新型ウイルス感染症を発症した時点で有効性を巡る中間分析を実施した」(ロイター)というもの。治験者が何人になるか公表されていないが、逆算すると1万444人となる。要するに1万人強にワクチンを投与した結果、94人が陽性になったものの、残りの9900人強は新型コロナが発症しなかったということだ。これをもって「9割を超える有効性がある」といっているのだが、一部の専門家は「興味深い結果だが、報道発表でしかない。基礎的なデータはまだ発表されておらず、査読を受けた論文も未発表だ。最終判断を下すにはさらなる情報が必要だ」と述べている。ファイザーは4万人を超える治験結果が今月中にまとまるとしており、今回の発表はあくまで暫定的なもの。査読を受けた論文も全体の治験が終わった後に発表するとしている。

バイデン次期大統領はこの発表について「素晴らしいニュースだ」としながらも、「米国で広くワクチンが接種されるまで何カ月もかかるだろう」(同)と述べている。その上で「感染抑制にはマスク着用が重要だ」と強調している。いまやマスクのバイデンと言ってもいいほどだ。就任後にマスク着用を義務付ける意向も示しているが、米国人は銃とマスクの不着用は“自由の象徴”と考えている人が多い。米国人が簡単にマスクの着用を受け入れるかどうか、はなはだ疑わしい。この際、ワクチンと同じように数万人を対象に治験を実施し、マスクの有効率を弾き出したらどうだろうか。それにしても株価だけが先回りする現状はなんとも苦々しい。それを意図した発表とみるのは穿ち過ぎか。ワクチン開発を揶揄するつもりはないが、コロナの収束が見えないだけに科学的知見にも猜疑の目が向いてしまう。