第46代米大統領に就いた民主党のジョー・バイデン氏は、就任初日に温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」への復帰や世界保健機関(WHO)の脱退とりやめなどを相次いで決めた。トランプ前大統領が主導した決定を取り消すことで内外に政策転換を印象づけた。

 それでも新大統領にとって多難な船出であることには変わりがない。激しい人種対立やコロナ禍でさらに広がった経済格差などによる米国社会の深刻な分断をいかに収拾するかが問われており、バイデン氏は就任演説で国民に結束を呼びかけた。

 だが、就任式典が行われた連邦議会議事堂ではトランプ氏の支持者による襲撃事件があり、当日はワシントン市内で2万5千人の州兵が厳戒態勢で警備にあたった。世界が見つめたその就任式典にトランプ氏の姿はなかった。前任者が大統領の就任式典を欠席したのは南北戦争後の1869年以来だという。米国の厳しい分断を象徴する出来事である。

 各紙の社説は、難しい舵(かじ)取りを迫られるバイデン氏に対する注文が相次いだ。産経は「米国は自由や民主主義を重んじる国々のリーダーであらねばならない。バイデン氏は国内を固め、強権主義に対抗する先頭に立ってもらいたい」と求めた。

 読売は「課題を一つひとつ着実に解決し、目に見える実績を上げることを期待したい。それが、社会の安定を回復し、世界を主導する米国の底力を発揮することにつながるはずだ」と期待を示した。

 朝日は「産業構造の転換で細った中間層の厚みをどう取り戻すか。米国の強みだった寛容な移民政策をどう支え、社会の活力や技術革新を強めていくか」と指摘した。そのうえで「格差を放置していては、トランプ的ポピュリズムの再来を防ぐことはできないだろう。様々な分断を克服する包摂力のある統治が求められる」と論じた。

 毎日も弾劾訴追を2度受けたトランプ氏を厳しく批判した。「外交を私物化した権力の乱用や、乱入事件につながる反乱の扇動が問われ、米国の権威をおとしめた」と難じたうえで、「米国をこれほど混迷の淵に陥れた大統領もまずいない。正常な姿に再建することが、バイデン政権の最大の課題になる」と注文を付けた。

バイデン政権をめぐる論考で目立ったのが中国との関係だ。産経は「トランプ政権は、1979年の米中国交正常化以降の関与政策を見直し、中国共産党独裁体制との対決姿勢を打ち出した。同政権の功績の一つであり、バイデン氏にも堅持してもらいたい」と厳しい対中政策の継承を求めた。

 そのうえで「『自由で開かれたインド太平洋』構想とこれを実現するための日米豪印の枠組みは中国の覇権阻止に有効であり、引き続き発展させなければならない」と訴えた。

 読売も「南シナ海や香港で独善的な動きを強める中国への対処は待ったなしだ」としたうえで、「経済成長が中国の民主化につながるという期待からの関与政策は多くの政権で失敗に終わってきた。バイデン氏は同盟国と協力し、中国のルール無視の行動に厳しく対応していかねばならない」と注文した。

 日経も「中国やロシアなど強権的な国家が影響力を強める世界において、自由と民主主義を守る役割も重要だ」と強調し、「米国、日本、オーストラリア、インドなどが一体となって国際秩序の破壊者に対抗していくことが望ましい」と提案した。

 これに対し、朝日は「グローバル化で相互依存が進む現代は、二項対立では捉えられない」と指摘した。そして「中国の平和的な発展への誘導と、アジアの安定した繁栄をもたらすことは、世界の利益に直結する」と論じた。

 産経は経済政策でも中国に厳しく対応するように求めた。トランプ政権が環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)から離脱した中で「中国は、地域的な包括的経済連携(RCEP)に署名し、TPP合流への意欲まで見せている。コロナ禍のさなかに着々とインド太平洋地域での影響力を拡大させている現状は見過ごせない」として、中国を牽制(けんせい)するためにも米国がTPPに復帰する重要性を唱えた。そのためには日本政府も米国のTPP復帰を促す必要がある。(井伊重之)

■バイデン新大統領をめぐる主な社説 

【産経】 ・自由世界の団結主導を/中国への厳しい姿勢変えるな(22日付)【朝日】 ・新思考で国際秩序の再生を(21日付)
【毎日】 ・米国の結束どう取り戻す(22日付)
【読売】 ・米国の結束と底力が試される/民主主義と国際協調の舵を取れ(22日付)
【日経】 ・米新政権と連携して国際秩序の再建を(22日付)
【東京】 ・米国の再建がかかる(22日付)