米株式市場で先週起こったゲームストップ株をめぐる一連の騒動は何を意味するのだろうか。メディアの報道をみると米国の零細投資家が一致団結して「売り」を専門とする機関投資家に「買い」で立ち向かい、完膚なきまでに打ちのめした仕手戦のように見える。だが事態はそんなに単純ではないだろう。香港の民主派は掲示板を使って抗議デモへの参加を呼びかけた。同じ手口でアメリカの個人投資家はSNSの「レディット」と言う掲示板を利用、「ゲームストップ株」の買いを呼びかけた。これに何百万人と言う零細投資家が呼応、プロである機関投資家を「踏み上げ」たのである。烏合の衆とも言うべき零細投資家の集まりをプロが甘く見たのかもしれあい。株価が急騰すればプロといえども莫大な損失を被る。これだけなら特異な仕手戦にすぎないのだが、これに証券会社が絡み騒動がヒートアップした。

個人投資家に人気のある株式売買のプラットフォームを提供している「ロビンフッド」という証券会社が、ゲームスポット株の「売り」には手をつけず「買い」を禁止したのである。裏で何があっかわからないが、この規制によって同株は急落、これを見て個人投資家がロビンフッドを提訴した。一連の動きにかの民主党左派であるアンドレア・オカシオ・コルテス(AOC)下院議員が参戦、公聴会の開催を要求した。まだある。共和党の次期大統領候補の一人と目され、悪夢となった1月6日に大統領選挙の開票セレモニーに反対したテッド・クルーズ上院議員も同調したのである。彼はトランプ氏の支持者、「盗まれた選挙」のやり直しを求めていた人だ。要するに米政界の左右両翼を代表する2人が共に一連の動きに意義を申し立てる事態となった。SECも調査に乗り出す方針を示しており、店頭株をめぐる動きは株式市場のメッカとも言うべき米国を揺るがす一大騒動に発展しそうなのである。

この事態で問われているのは何か。一つは規制の是非。次がSNSの掲示板を使った買い推奨の是非。そして何より重要なのはロビンフッドが行った規制が強いものをより強くする可能性があることだ。ロビンフッドは米国社会の勝ち組として認識された。格差が拡大する米国の勝ち組はエスタブリッシュメントでありエリートである。エリートに有利なルール変更が零細投資に大きな打撃を与える。「不公平だ」、怒りに燃えた零細投資家が反発、大挙して「買い」回ったのだ。零細投資家とはいえ株式売買に熟知した人たちだ。ゲームソフトを店頭で販売する会社に将来性がないことは百も承知だろう。全米で1000店舗を展開するというこの会社の株価はそれまで20ドル台に過ぎなかった。その株が瞬く間に400ドル近くまで駆け上がった。事態が鎮静化すれば株価は元の水準に戻る。その時、買い方は大損を被る。それを承知で買い向かった。彼らを動かしたのは金持ちだけが得をする米国社会に対する“怒り”だろう。米国はいま巨大な“怒り”に直面している。