政府はきょう、緊急事態宣言の1カ月間延長を決める。3月7日まで延長される。陽性者の数が減ってきたとはいえ、オリンピック開催まで半年を切ってきた。万全を期すためには致し方ない措置だろう。だが、個人的には今回のパンデミックに関して多くの疑問を抱いている。とりわけPCR検査についてはわからないことが多い。そこで一冊の本を読んでみた。タイトルに掲げたのがこの本の表題だ。著者は徳島大学名誉教授・大橋眞氏。PCR検査の発明者であり、ノーベル化学賞の受賞者でもあるキャリー・マリス博士は「PCRは、感染症の診断に使ってはならない」という言葉を残しているそうだ。「感染症の診断」という部分を「RNAウイルスの検査」に置き換えて表題にしている。この本の存在を知ってすぐにネットで注文したが売り切れ。書店経由で注文していたのがようやく手元に届いた。緊急事態宣言の延長を機に、PCRを再考してみた。

ウイルスの遺伝子はDNA型とRNA型に大別されるそうだ。新型コロナウイルスはRNA型。人間の細胞に入り込んで増殖を繰り返すが、その際に変異する可能性が高いことで知られる。いま世界中で英国型とか南ア型とか感染力の高い変異種が注目されている。だが、この本によるとウイルスの変異は当たり前で、変異率を5%とすると1年も経たないうちにPCR検査で発見できなくなってしまうという。PCRは鼻の粘膜から採取した検体に試薬を加え、検査器にかけて遺伝子を増殖させる技術である。検体の中にはコロナウイルス以外にも、人間が持っている無数の細菌の遺伝子などが混じっている。ここからコロナウイルスだけを抽出できればいいのだが、中にはヒトゲノムに含まれる遺伝子や人間にとって有益な細菌の遺伝子も含まれる。PCR陽性といっても、何に反応しているのかわからないのが実態らしい。仮にそうだとすれば毎日発表される陽性者の数は何を意味しているのか、無症状の陽性者は一体何に感染したのだろうか。疑問が疑問を呼ぶ。

遺伝子はタンパク質の元になる塩基の連なりである。コロナウイルスの遺伝子は約3万個の塩基で構成されている。PCR検査で調べるのは40塩基(20塩基×2)。750分の1という塩基のカケラを使って全体を特定している。これを称して大橋氏は「耳たぶだけで人間の顔を特定するようなものだ」と指摘する。研究室で特殊なウイルスを調べるのには有用だが、汎用的な「RNAウイルスの検査」には使えないというのだ。この指摘が正しいか、正しくないか私にはわからない。ただ、この1年のパンデミック騒動の中で、科学的に実証された事実が提示されたことはほとんどないような気がする。テレビを中心としたメディアはPCR検査を絶対視し、陽性者と死亡者の数をベースに医療の逼迫を論じている。大半が推測、憶測の類だ。「推測に推測を重ねると事実を見誤る」と著者は指摘する。以上はこの本のほんの1例に過ぎない。事実は謎だらけだ。願わくは科学的に実証された事実に基づいてパンデミックを評価して欲しいものだ。