ニューヨークタイムズ(NYT)が伝えたところによると、バイデン政権の経済対策第2弾ともいうべきインフラ投資計画は、総額が3兆ドル、邦貨換算330兆円の規模になる見通しだ。規模についてはすでにいくつかのメディアが3兆ドル程度と報道しており新鮮味はない。NYTの記事は「(この計画が)今週中にもバイデン大統領に提出される」としており、巨大な投資計画が具体的に動き出すというところが味噌か。既に成立している追加のコロナ対策2兆ドルを加えれば、合計5兆ドルという莫大な規模である。投資は今後4年かけて実施に移される計画で、単純に合計しても意味がないことはわかっている。だが、この記事をみて最初に思ったのは民主党における左派勢力の凄まじい勢いだ。バーニー・サンダース氏の顔が頭の中にチラついた。

個人的には元々財政積極論者。投資規模が5兆円だろうが10兆円だろうが驚くに当たらない。規模というよりはこの数字を見て驚くのはバイデン政権内部の力関係だ。バイデン氏は元々中道派。調整型の政治家で心情的には共和党に近いのではないかと思っている。政権発足に当たった人事ではオバマ政権を支えた中道派の人材を多く登用した。左派はやや冷遇されているのではないか、そんなことを個人的には考えていた。だが、政権が動き出してからの凄まじいトランプ潰しと経済政策では、左派の主張がより多く取り入れているように見える。オバマ政権で財務長官を勤めたサマーズ氏はつい先日ブルームバーグテレビに出演、「米国はこの40年間で『最も責任感の乏しい』マクロ経済政策に苦しめられている」と強烈な政権批判を行なった。

批判の対象は民主党左派と共和党。「根本的には、民主党左派の強硬姿勢と、共和党全体のかたくなで全く無責任な態度がもたらしている」と指摘する。米国が直面している「かなり劇的な財政・金融不調和」の責任はこの両者にあるというわけだ。サマーズ氏の分析を待つまでもなく、バイデン政権はどうやら政策的には左派が圧倒的に優位に立っているように見える。そういえばバイデン氏はカマラ・ハリス副大統領を時々間違えて「大統領」と呼んでしまうと、一部の批判派の間で噂されている。左派の経済対策を支える理論的支柱はMMT。MMTのキーワードはインフレの回避。サマーズ氏は「数年先にスタグフレーションに陥る」と警鐘を鳴らす。当のバイデン氏は飛行機のタラップでこけたり、国防長官の名前を失念したり見るからに頼りない。米経済はポストコロナの方がはるかに危険かもしれない。