東京電力福島第一原子力発電所に貯蔵されている処理水の海洋投棄が、本日開催された関係閣僚会議で正式に決定された。原発事故に伴って発生した大量の放射性物質汚染水が構内に溜まっている。この汚染水から放射性物質を取り除いた処理水を海洋に投棄する計画だが、三重水素と呼ばれるトリチウムは現在の技術では取り除けない。自然界にも存在し毒性が少ないとはいえ放射性物質であることに変わりはない。これを含んだ処理水が人類共有の財産である海洋に投棄される。その是非をめぐってさまざまな議論や検討が行われてきた。政府は専門家による委員会を立ち上げて検討してきた。NHKによると「(政府は)2年後をめどに福島第一原発の敷地から放出する準備を進め、放出にあたっては、トリチウムの濃度を国の基準の40分の1、WHO=世界保健機関が示す飲料水の基準では7分の1程度に薄める」としている。

海洋投棄には副作用が伴う。一番大きいのは風評被害だろう。菅首相と会談した全漁連の岸会長はあくまで「絶対反対の立場」を表明している。国際的にも韓国や中国が海洋投棄に反対の姿勢を見せている。また環境保護グループなども自然環境を破壊するとして反対している。これに対して表立って賛成する声はほとんど聞かれない。メディアの取材に応じた専門家が「大量の処理水を処分する方法としてはこれしかない」とコメントするくらいのものだ。トリチウムに関する詳細な報道もほとんどない。メディアの多くは海洋投棄の是非を判断していない。漁業関係者や一部海外にある懸念を伝えることに徹しているような報道姿勢を貫いている。だからというわけではないだろうが、政府の対策も風評被害の防止や損害賠償、トリチウム濃度の測定など環境対策を兼ねた善後策に特化しているように見える。

個人的には「致し方ない」と思っている。漁業関係者の反対の気持ちはよくわかる。原発事故を受けて徹底的な放射能検査を実施している福島魚連関係者の並々ならぬ努力には頭が下がる。それでも風評被害は収まらない。トリチウムの海洋投棄で再び同じことが起こるかもしれない。それを思うと胸が痛む。だが、汚染水を永遠に陸上に貯蔵することも非現実的だ。限りある敷地の中で原発の廃炉も進まない。だから「致し方ない」と思うものの、全面的に賛成というわけでもない。海洋投棄は人類の財産ともいうべき海洋を無断で勝手に使うことを意味する。いま海洋は環境破壊の影響を受けてかつてのような回復力を失っている。温暖化による海水温の上昇、海水の酸性化、マイクロプラスチックによる汚染など、人類による破壊が止まらない。破壊が進むその海洋環境への心遣いが政府にも専門家にも微塵も感じられないところに、大いなる不満が残っている。