いまの時代は地質年代尺度(GTS)でいうと「人新世(ひとしんせい)」と呼ぶのだそうだ。だがこの名称は正式に承認されたものではない。年代尺度の承認には長期にわたる厳格な審査が必要で、この呼称が正式に承認されるまでにはもう少し時間がかかりそうだ。とはいえ、呼称自体はすでに世界中で使われているし浸透もしている。日本でも斉藤幸平氏による「人新世の『資本論』」(集英社新書)がベッストセラーになっている。こうした実績を加味して2009年には「人新世ワーキング・グループ(AWG)」が発足、承認に向け協議を開始している。2019年には検討を継続するかどうか30数名の研究者による投票が行われ、圧倒的多数で検討継続が決まった。2022年春には正式提案される予定だが、コロナウイルスの感染拡大により研究者の活動が停滞、エビデンス集めに支障が生じているという。(「世界」5月号を参考にした)
日本では変異種が猛威を振るい始めている。日本に限らずウイルスはいろいろなところに影響を及ぼしているわけだが、研究者の中にはウイルスの感染拡大自体、人新世が作り出したものと考えている人もいるようだ。人新世はノーベル化学賞受賞者のオランダ人、パウル・クルッツェンという気候科学者が初めて使った呼称だ。地球誕生から46億年、人類は資源の過剰開発に始まり温暖化、大気汚染、水、土壌など生態系の破壊、動植物の絶滅などに手を貸してきた。人新世は地球誕生以来が初めて、人類が地球環境に影響を及ぼし始めた時代を指している。20世紀の中頃からこの時代が始まったという。その行き着いた先が新型コロナウイルスの蔓延する「いま」というわけだ。因果関係が明確に実証されているわけではないが、言われてみれば、なるほど、そんな気がしないこともない。
人類はすでに地球の自然回復力(レジリエンス)をいくつかの点で踏みにじっていると指摘するのはスウェーデンの環境学者ヨハン・ロックストロームだ。人類は人新世以前までは「大きな地球」の「小さな世界」に生きていた。その人類はいま「小さな地球の大きな世界」(本のタイトル)の住人となって経済成長や豊かさを追い求めている。豊かさを求めるあくなき努力がいつの間にか、地球の生態系を破壊しているというのだ。こうした動きを食い止めようとする努力も一方で行われてきた。ローマクラブが「成長の限界」を出版したのが1972年である。パリ協定の合意成立が2015年、多くの国が2050年のカーボンニュートラルを宣言している。だが、「大きな世界」の住人は「小さな世界」に戻れないと思う。現に世界中がいま必死に成長軌道への復帰を目指している。不謹慎の誹りを承知のうえであえていえば、コロナウイルスはそんな人類の将来を慮ってか、経済成長にストップをかけようとしているような気がして仕方ないのだ。
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