菅首相とバイデン大統領による首脳会談の後に発表された共同声明全文を読んでみた。内容的にはいままで報道されていたことのてんこ盛りで、バイデン大統領が推進する戦略的協調路線を日米が連携してリードしていく、いってみれば両国の決意表明のような印象を受けた。柱は中国包囲網の強化(台湾支援を含む)、見返りとしての主要部品におけるサプライチェーンの連携強化、気候変動対策での連携の3つ。「日米競争力・強靱性(コア)パートナーシップ」という新しい考え方も盛り込まれている。このほかにもコロナ対策、北朝鮮問題、ミャンマー問題、健康安全保障、オリパラなどアップデートな関心事項も書き込まれている。まるで安倍前首相の成長戦略を見ているようだ。すべてを網羅したが何も進まなかった。日米共同声明も同じ轍を踏むのだろうか。大きな違いが一点だけある。日本の防衛力強化だ。

両首脳は3月に開かれた日米の「2プラス2」会合後の共同発表を全面的に支持するとした上で、「日本は同盟及び地域の安全保障を一層強化するために自らの防衛力を強化することを決意した」と記載されている。今回の首脳会議では米国が「日米安全保障条約第5条が尖閣諸島に適用されることを再確認した」と共同声明に明記されたことが大きく取り上げられた。これまで口頭での約束だった5条適用が明文化された意味は大きいと思う。これによって中国に対する抑止力は大幅に強化されるだろう。それはそれで確かに大きな成果だと思う。だが、その一方で日本が「防衛力強化を決意した」ことはメディアではあまり報道されていない。米国が尖閣防衛を決意すれば日本が防衛力を強化せざるを得なくなるのは当たり前のことだ。そこまではいいのだが、それを裏付ける「覚悟」は政府ならびに国民にあるのだろうか。

沖縄県石垣市が3月に同市が管理する尖閣諸島に行政標識を設置する動きをみせたとき政府は、「尖閣諸島および周辺海域の安定的な維持、管理という目的のため、原則として政府関係者を除き何人も尖閣諸島への上陸は認めないとの方針をとっている」(加藤官房長官)と説明した。政府(環境省)が行う植生調査も上陸しないで衛生画像を使って行う。自国の領土と主張しながら政府はこれまで実効支配の道を閉ざしてきた。同じ主張を繰り返しながら竹島はすでに韓国が実効支配している。尖閣周辺の海域には膨大な資源が眠っていると言われている。中国はいずれ実効支配から占有へと乗り出すかもしれない。米国頼みの抑止力だけで尖閣は防衛できるのか。一方で経済は中国頼りという実態もある。個人的にはアンチ習近平だが、日本外交としては「米国も中国も路線」がいいと思う。だが、その選択肢は共同声明からは読み取れなかった。メディアの報道にも尖閣防衛の「覚悟」はまったくない。そこが気になった。