バイデン大統領が就任してきょうで丸3カ月。トランプ前政権に比べて滑り出しは順調だ。支持率もオバマ政権には及ばないものの、50%台後半で歴代政権に比べて高い方だ。個人的にはいるかいないかよくわからない、存在感の薄い大統領だという印象を持っている。だが、それがどうやら成功の秘訣のようだ。認知症が心配されている大統領だが、取り囲むスタッフは大半がオバマ政権を支えた人たちだ。政界歴40年に及ぶバイデン大統領の豊富な経験と人脈、それを実務にたけたスタッフが取り仕切る。これがチーム・バイデン強みだろう。このチームの中心にいる大統領の“期待値”はことのほか低い。就任100日で実現する予定だったワクチン接種の1億人達成は、半分の50日で実現した。最初からハードルを低く設定し、楽々と乗り越えて見せる。気ままな世論には「なかなかやるじゃないか」、これが好印象に映る。

期待値の低い人が大統領になるというのは一種の奇跡だ。それを実現したのがトランプ前大統領だ。米国第一主義で二国間交渉に軸足を置く。破天荒に上から目線を貫いた。ワクチンの製造にも莫大な予算をつけ、厳格な審査という本来あるべきプロセスをはしょった。「ワープスピード」作戦である。これがなければワクチンはまだできていなかっただろう。大統領選挙には間に合わなかったが、バイデン政権には絶大なる恩恵をもたらした。ワクチンだけではない。対中国強行路線もちゃっかりとトランプ政権を受け継いでいる。ロシア大統領を「人殺し」と断罪、親プーチンのトランプ前大統領との違いを見せつけた。前政権が軍事費をめぐって同盟国批判を繰り返した前例を厳しく批判し、価値観を同じくする国々との協調路線を淡々と推進している。気候変動問題も然り。中国の習近平主席を強烈に非難する一方で、気候変動に関するオンラインの首脳会談にはしっかりと招待している。

記者会見はほとんど開かない。認知症の発覚を恐れているのではとの疑念を撒き散らしている。米国メディアは100日間というハネムーンの慣行を破って早々に大統領批判をおこなった。ボロをできるだけ出さない、これも一種の作戦なのか。メディア批判を口にする様子もなく、淡々と仕事をこなしている。かくして2兆円のコロナ対策や個人に対する現金給付、2.3兆円にのぼるインフラ投資の基本計画発表、中国包囲網の形成と、この100日間は前例を見ないような充実した仕事だ。期待値が高すぎて失敗したオバマ政権の経験が生きているのだろう。オバマ氏の轍を踏間ないように期待値をあえて低く設定、楽々とクリアーすることをバネに長期政権を狙っているかのような印象だ。これが戦略に基づく政権運営だとしたらこの政権、意外にしたたかで現実的で、実績を残せるのかもしれない。