バイデン大統領は昨日、共和党の議会指導者と会談し、自ら打ち出したインフラ投資計画や増税路線の実現に向けて調整を始めた。おそらくここでの同大統領の指導力が来年の中間選挙や3年後の大統領選挙に大きな影響を及ぼすだろう。それだけではない。世界中の経済政策を左右することになるような気がする。ここで強力な指導力を発揮できなければ同大統領の吸引力は急激に衰える可能性がある、と個人的には思っている。オバマ大統領の失速と同じ轍を踏まないためには、巨大投資計画を実現するために共和党をねじ伏せる必要がある。民主党政権にとって最初のヤマ場であり正念場だ。共和党はバイデン大統領が掲げる増税路線に徹底的に抵抗するだろう。インフラ投資計画も劇的な規模の縮小が必要としている。妥協はバイデン大統領の敗北を意味する。大統領のねじ伏せる力、それが焦点だ。

議会上院の議席数は50対50。大統領にとっては議長を勤めるハリス副大統領の1議席だけが頼みの綱。民主党内の結束力も気がかりだ。党内左派と中間派の間には考え方に大きな開きがある。右派には共和党に近い人もいる。民主党といっても実態は呉越同舟だ。バイデン大統領にとって何よりも必要なことは、民主党内で取りこぼさないことだ。その次に共和党上院のアンチ・トランプ派を一人でも多く取り込む必要がある。それができない場合は共和党との間で妥協策を模索することになるが、おそらく同党はいかなる増税案ものまないだろう。来年はもう中間選挙だ。共和党にしてみれば徹底的にバイデン大統領と戦う方が選挙に有利になる。トランプ前大統領はすでに活発に動き始めている。共和党はトランプ前大統領を厳しく批判している党内No.3のチェイニー氏の役職を昨日解任した。

バイデン大統領は就任早々コロナ対策として1.9兆ドルの救済策をまとめた。その上で3月には米国雇用計画(2.3兆ドル)、4月には米国家族計画(1.8兆ドル)を発表している。計画を実現するための財源には法人税や富裕者を対象とした増税案が含まれている。これらの計画が実現すればレーガン大統領時代を起源とする新市場主義経済運営が大きく修正される可能性がある。小さい政府から大きな政府へ、所得格差を解消し公平、公正な社会の実現など、国家運営の基本が軸肉強食の市場主義から、多様性や平等性を軸とした人間主義に転換する可能性がある。細かいことは別にして大きな政策の方向性に間違いはない。問題は実行力だ。国内世論は民主党と共和党に二分されている。昨年の大統領選挙をめぐる不正疑惑はいまだに燻っている。混沌とした現実の中で、国家を変えるのは計画ではない。それを実現する政治力だ。