Ed Cropley

[ロンドン 10日 ロイター BREAKINGVIEWS] – 米自動車産業のパイオニアである、フォード・モーター創業者のヘンリー・フォードは、事業を起こすにあたりほぼすべてのリスクを潰していた。ピカピカの生産ラインに原材料が確実に届くように、バージニア州の炭鉱からブラジルのゴム農園まで、すべての原料調達元を傘下に納めたのだ。こうした姿勢は、米電気自動車(EV)大手テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)や独フォルクスワーゲン(VW)のヘルベルト・ディースCEOなど「後継者」が、EVやコバルトなど手に入りにくいバッテリー原料に未来を託す際の教訓となる。

EVメーカーにとってコバルトは二重の意味で頭痛の種だ。当面はリチウムイオンバッテリーに不可欠の原料となるだろうが、世界全体の生産の4分の3が、問題を抱えたコンゴ民主共和国1国に集中している。テスラやVWのような西側メーカーにとって一層厄介なのは、コンゴで産出されるコバルトは半分を相当上回る分を中国企業が抑えていることで、世界で採掘される年13万トン強の40%余りを中国企業が握っている。コンゴでは中国企業以外の生産分の大半をスイスの資源大手グレンコアが手がけている。

EV用バッテリーは平均で1個当たり10キロ程度のコバルトを使用し、今のところEVメーカーはコバルトの調達を長期契約に頼っている。しかし新型コロナウイルスワクチンの接種が急速に進み、コバルトの調達はノーリスクではなくなった。国際エネルギー機関(IEA)によると、二酸化炭素(CO2)排出実質ゼロの経済を実現するとコバルトは需要が30倍に膨らみ、価格の上昇は昨年記録した60%をはるかに上回る見通しだ。今回の世界的半導体不足の犠牲者となった自動車メーカーは、サプライチェーンの混乱に対して非常に神経を尖らせている。

中国のバッテリー製造大手、寧徳時代新能源科技(CATL)は先月、自らこの問題への対応に乗り出し、中国の洛陽モリブデンがコンゴに保有するキンサフ銅・コバルト鉱山の持ち分25%を1億3700万ドルで取得した。この一手には複数の利点がある。第1に、CATLはキンサフ鉱山のコバルトの売却先や売却量について発言権を確保できる。第2に、CATLは投資計画や生産計画に影響力を及ぼすことができる。コバルトが銅の副産物として生産されていることを考えると、この点は重要だ。第3に、CATLはコバルト価格が暴騰した場合に備えて有用なヘッジ手段が手に入る。

マスク氏やディース氏にとっては、時価総額570億ドルのグレンコアの一部株式を取得するよりも、グレンコアが75%の株式を保有するカモト・カッパーか、現在操業が止まっているムタンダ鉱山など、コンゴに注力しているグレンコア子会社の株式を保有する方が投資額に見合うだろう。カモトが保有するカタンガ鉱山は昨年のコバルト生産量が2万3900トンだった。コンゴ政府と共同で鉱山を所有するのが問題なら、より安全な代替策としてオーストラリアのムリンムリン鉱山がある。同鉱山はニッケルの副産物としてコバルトを生産しており、昨年の生産量は2900トンと少な目だが。

マスク氏はネバダ州でリチウムの採掘を、テキサス州では宇宙企業スペースXのロケット向けにメタンの採掘を計画するなど、既にヘンリー・フォードの跡を追うような策を打ち出している。アフリカでも同じような戦略に動くことは十分に考えられる。

●背景となるニュース

*中国のバッテリー製造大手、寧徳時代新能源科技(CATL)は4月11日、中国の洛陽モリブデンと戦略的な提携を結び、洛陽モリブデンがコンゴ民主共和国に保有するキサンフ銅・コバルト鉱山に出資すると発表した。

*CATLの発表によると、同社子会社の寧波邦普時代新能源が、洛陽モリブデン傘下KFMの株式25%を1億3700万ドルで取得する。KFMはキサンフ鉱山の95%を保有している。

*洛陽モリブデンによると、同社とCATLは「世界で通用する銅・コバルト生産大手」を生み出すため、出資比率に応じてキサンフ鉱山に投資するという。

(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)