先週メディアを騒がせた高橋洋一内閣官房参与の「さざ波」発言を検証してみた。ツイート直後からネットで炎上、国会で内閣総理大臣が答弁を求められるほどの騒動になった。とりあえず経緯を時系列的に整理してみようと調べはじめたのだが、あまりにも馬鹿ばかしいことにすぐ気がついた。日本の言論の貧相な実態が垣間見えたからだ。問題のツイートは5月9日付、「日本はこの程度の『さざ波』。これで五輪中止とかいうのは笑笑」。たったこれだけにもの。この一文に以下のグラフが添付されている。インド、フランス、カナダ、ドイツ、イタリア、米国、日本、英国。グラフはG7にインドを加え感染状況をグラフ化したもの。100万人当たりの感染者数を7日移動平均でグラフにしている。日本は最下層で横軸に張り付いている。インド、フランスなどの大波に比べると、本当に「さざ波」にしか見えない。

だが、この「さざ波」発言が五輪開催反対派、あるいは慎重派の逆鱗に触れた。立憲民主党は早速国会で高橋氏の参考人招致を要求、自民党がこれを拒否すると一時国会審議をストップするといういつもの行動に打って出た。メディアやタレント、一部の知識人も参戦し、「さざ波」発言批判が瞬く間に広がった。論拠は死者に対する配慮がないこと、欧米に比べれば少ないが、台湾や韓国に比べれば日本の感染は抑えられていないなど、あれやこれやの批判が巻き起こった。某テレビ局のコメンテーターは、内閣官房参与としての報酬は税金、返上すべきだとの趣旨の批判までしている。高橋氏はこの発言を全面否定、「事実を調べてから言え」と逆批判に発展する始末。「さざ波」という表現は元厚労省医系技官である木村氏が最初に使ったとされている。保守系の人々の間では以前から知られていた表現でもある。一方の五輪は立憲民主党や共産党が開催中止を主張し、開催そのものが政治問題化しはじめている。

新型コロナをめぐる論争の多くは科学的根拠に乏しい感情論が多い。国際比較すれば日本はさざ波の部類に属することは間違いないが、台湾に比べればはるかに多い。死者が増えていることと五輪を結びつけるのは感情論だろう。スポーツは毎日全国で開催されている。五輪反対派の多くはいわゆるポリコレを論拠にしているように見える。コロナで医療が逼迫し、重傷者や死者が増えている。誰も否定できない正論がまことしやかに罷り通る。だが医療逼迫の裏で一部の医師がコロナ診察を拒否しているという高橋氏や木村氏の指摘には誰も反応しない。政府は超法規的な措置で歯科医師にワクチン接種を認める決断をした。これを機に医師や看護師の間で接種に名乗り出る人が相次いでいるようだ。問題は正論に覆われて見えなくなっている本当の事実だ。感情論では何も見えてこない。ちなみに五輪。個人的には10月に延期すべきだと思う。7月開催はIOCと米放送メディアの野合によるもの。コロナを理由に10月開催を押し通す。それだけの政治力があれば日本政府もコロナにも対抗できるだろう。