パウエル議長は昨日、コロナウイルス危機に関する下院特別小委員会の公聴会で証言を行い、FRBは労働市場の「広範で包摂的な」回復を促進すると発言、インフレ懸念のみに基づいた性急な利上げは実施しないと改めて確約した。以上はロイターが報じたもの。発言の中身は従来からの主張を繰り返したもので、マーケットに大きなインパクトは与えなかった。ただ、FRBに対する世論の関心は日本と違って桁違いに強いことが、テーパリング(金融緩和の手段になっている買い入れ資産の削減)をめぐるメディアの報道からもうかがえる。そんな中でおやっと思ったのは、サンフランシスコ連銀のデイリー総裁の発言。「年末もしくは来年初めにもテーパリングを開始する準備が整う可能性がある」という考えを示した。気になったのはこの発言ではない。背景説明の方だ。

ロイターによると同総裁は学校閉鎖やウイルスを巡る懸念、失業保険など労働力の供給を制限している多くの要因が解消されることにより、「今秋には経済の先行きがより明確になると期待している」と語った。問題はこの後、「(そうした中で)気候変動については、世界経済と金融システムに『重大なリスク』をもたらしており、米国の広範な地域が混乱する可能性がある」と述べている。コロナのリスクが収束しても、もっと大きなリスクが世界を覆っている、そう主張しているようだ。「気候変動は雇用と物価の両方に直接的に影響を与える可能性があり、気候変動の影響を理解することは結果的に米連邦準備理事会(FRB)の正当な権限だ」と主張。その上で「気候変動は貯蓄率、労働生産性、設備投資にまで影響を及ぼしかねず、長期的な中立金利を押し下げる可能性もあり、そうなればFRBは従来の金融政策で将来の景気後退に立ち向かう余地が乏しくなる」と言っている。

この見解に従うとすれば、景気回復に伴うインフレ懸念など屁のかっぱということになる。気候変動に対処するためカーボンニュートラルを推進すれば、「長期的な中立金利を押し下げる可能性がある」。そうなればインフレどころではない。デフレだ。デフレの危機が地球上を覆っているのに、世間は目先のインフレ懸念に頭を悩ませている。気候変動対策で後戻りすることはできない。そんなことをすれば地球が滅んでします。となれば、今から準備しなければならないのはインフレ対策ではなく、デフレ対策だ。デイリー総裁の発言を拡大解釈すればそういうことになる。バイデン大統領も菅首相もカーボンニュートラルで「グリーン成長する」と主張している。こうした発想自体が“グリーンウォッシュ”かもしれない。そんな気さえしてくる。コロナウイルスの起源説だけではない。すべてが揺らいでみえる。