25日に開かれた東芝の株主総会で永山治取締役会議長と監査委員会の委員だった小林伸行氏の再任が否決された。予想されたことだが、決まってみれば前代未聞の異常事態だ。14日付のこの欄で「永山氏の退任は避けられないだろう」と書いた。この時点ではいずれ開く臨時株主総会までに新任の取締役候補を決め、その時点で永山氏は自ら身を引くことを想定していた。だが、株主の判断はもっと直截的だった。株主総会でストレートに再任を認めなかった。永山氏をはじめ東芝の取締役会はそこを完全に見誤った。なぜ見誤ったのか。最初に問われるのはそこだろう。コーポレートガバナンス(企業統治)強化を打ち出していた東芝の「建前」と「本音」の乖離。監督官庁である経産省に対する「忖度」かもしれない。株主の意向を見抜けない取締役会の「認識の甘さ」、「これが東芝経営陣の伝統」と批判は様々。個人的には東芝経営陣はKYだった気がする。KYは東芝だけか、役所を含めてそこが問題だ。
筆頭株主でありアクティビスト(もの言う株主)であるエフィッシモが提起した問題は2つある。一つは議決権の集計疑惑、もう一つが経産省と一体となって特定株主に圧力をかけたとする圧力疑惑。集計疑惑は技術的問題だが、圧力疑惑は本当なら取締役会の万死に値する違法行為である。調査者に選任された弁護士3人がまとめた報告書が10日に公開された。この中で具体的証拠は明示されなかったものの、関係者の証言やメール、添付書類など膨大な資料を精査した結果として疑惑は「黒に近い灰色」と認定された。経産省は報告書そのものを認めていないようで、疑惑に関係した当人もロイターのインタビューで圧力を否定している。だが、圧力の有無以上に問題だと思うのは、昨年の株主総会に監査委員会が提出した報告書だ。この中で「圧力はなかった」と完全否定していた。このことが逆に監査委員会並びに永山議長に対する不信感を増幅させたのではないか。
東芝は日本を代表する大企業である。家電や重電に原子力分野や通信、半導体といったセンシティブな分野もカバーしており、防衛企業としての側面も担っている。言ってみれば日本の安全保障を支える民間企業だ。だから経産省や国はアクティビストの言いなりになるのを嫌う。企業は誰のものか、アクティビストは「株主のもの」という。経産省や国はこの問いに明確に答えられない。代わりに外為法を改正し、安全保障関連企業の株主に制約をかけようとする。自民党の新国際秩序創造戦略本部の甘利明座長はこの4月、「(東芝は)重要な国防や原子力、量子分野を担っており、外資に翻弄されていいのか疑問だ」と指摘した。2015年に不正経理が発覚して顕在化した東芝の混迷。口ではコーポレートガバナンス強化と言うが、実態は旧態依然としている。防衛企業として不可欠と言うなら国も資本を入れるべきだろう。「圧力」や「忖度」では苛烈な国際競争は乗り切れない。グローバルに馴染まないローカルなガバナンス。この齟齬が日本経済の停滞を招く一因ではないか、そんな気がする。
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