【ロンドン時事】南アフリカで連日起きている大規模暴動は、軍の展開で沈静化に向かいつつあるものの、一部地域では依然略奪が横行し、「危険な状態」(政府当局者)が続く。1994年の民主化以降で最大規模とされる暴動に至った背景には、アパルトヘイト(人種隔離)撤廃後も社会に巣くう深刻な貧困や不平等があるとみられ、問題の根は深い。

南アフリカ暴動、日系企業に影響 加藤官房長官

 暴動は、法廷侮辱罪で収監されたズマ前大統領の支持者が抗議デモを始めたことが発端。一部が暴徒化して警察と衝突、略奪や放火も相次ぎ、16日までに少なくとも212人が死亡、2500人以上が逮捕された。ズマ氏の地元、東部クワズールー・ナタール州と最大都市ヨハネスブルクがあるハウテン州の状況が特に深刻で、政府は両州を中心に兵士2万5000人を展開、事態収拾を図っている。

 略奪被害に遭ったスーパーや商店は多くが営業停止に追い込まれ、インフラの破壊で物資輸送も滞る。このため食料や日用品の不足が深刻化し、報道によると、同国東部のダーバンなどでは数少ない営業中の店にパンやミルクを求める住民が殺到、長蛇の列ができた。日本貿易振興機構(ジェトロ)南ア事務所によると、ダーバンに倉庫を持つ日系企業も襲撃を受け、生産停止の状況に追い込まれたという。

 今回の暴動は「南ア民主化以降でまれに見る暴力行為」(ラマポーザ大統領)と言われる。ズマ氏支持者によるデモ騒ぎに便乗した多数の市民が手当たり次第に暴力や略奪に走り、社会が無秩序状態に陥っている。

 背景には、アパルトヘイト後も人種格差が改善されない中、生活難と不平等に苦しみ続ける黒人貧困層の不満と怒りがある。今も黒人の失業率は白人の4倍。特に黒人若年層の失業率は5割を超え、大多数が貧困下で暮らす。「失うものは何もない」という絶望感が、人々を暴力へと駆り立てているようだ。