横浜市長選挙で菅首相が個人的に推薦した小此木候補が敗北した。自民党の分裂選挙ということもあって、公明党をふくめて与党は早々に自主投票を決めていた。菅首相は地元であり側近の1人である小此木氏が立候補したことを受け、自民党総裁としてではなく個人として支援してきた。だが、そんな小手先の配慮は何の意味もない。負ければ総理・総裁の求心力は一気に低下する。自民党総裁の任期が9月末、衆議院議員の任期が10月末に迫っている。選挙に勝てるか勝てないか、政策も理論も筋も何ほどの意味もない。 “選挙の顔”として適任か否かを見極める。それがこの選挙の最大の課題だった。横浜市長選挙には、明確なイッシューがあった。カジノを含む統合型リゾート(IR)誘致の是非である。このイッシューがいつの間にか、“選挙の顔”に変質した。そして野党統一候補の山中氏が勝利した。同氏が感染症の専門家だったことも有利に働いた。

今回の選挙に関する政党の評価を拾ってみた。岸田派中堅は敗因について「首相への拒否感だ」(時事ドットコム)と断言。麻生派の閣僚経験者は「首相を嫌い小此木氏から離れた人もいたはず」(同)と語った。いずれも菅首相の個人的な資質に敗因を求めている。NHKは「立憲民主党など野党側は新型コロナの感染拡大に歯止めがかからない中、菅政権への不満や批判が示された結果だ」と分析、「直ちに臨時国会を召集して対策の強化などの議論に応じるよう迫る方針です」と野党の雰囲気を伝えている。朝日新聞は出口調査に基づいて「今回、無党派層は全投票者の43%を占めた。自民支持層の32%を上回り、最大勢力にふくらんだ。当選した山中氏は、その無党派層から39%を獲得した。菅義偉首相が支援した小此木八郎氏は10%、現職の林文子氏は12%しか無党派層から支持を得られなかった」としている。要するに自民党も小此木候補も菅首相も、無党派層から見放されたということだ。

敗因はともかくとして今回の選挙は来るべき総選挙で、政権の選択に結びつくのだろうか。時事ドットコムには立憲民主党の江田憲司代表代行のコメントが載っている。「いい受け皿があれば自民党は恐るるに足りない。胸に響く政策を打ち出せるかが立民に突き付けられた課題だ」と記者団に語った。むべなるかな。臨床統計学を専門とする医学部教授の山中氏は、その意味では後手続きの政府・与党批判の受け皿になった。だが、これらはいずれもワンイッシューに過ぎない。難問山積の国際情勢、不透明感を強める日本経済の先行き、不安や不信が渦巻く有権者の日常生活、問われているのはトータルな課題への答えだ。野党の立憲民主党と同時に、自民党総裁戦への立候補に意欲を占める示す党内有力政治家はこれにどう答えるか。いま必要なのは人気やポピュリズムではなく有効な政策だ。