自民党の新総裁に岸田文雄氏が就任することが決まった。一回目の開票作業をテレビで見ていたが、途中経過にちょっとしたサプライズがあったが、終わってみれば想定通りの結果だった。投票権はないが事実上の首相を決める選挙である。一有権者として眺めてきた感想を思いつくままに記しておきたい。何よりも一回目の投票で河野氏が獲得した議員票が高市氏を下回ったことに驚いた。これをみながら最後の最後に派閥が強烈に締め付けたのだろう、そんな気がした。政治家が集って派閥をつくり、そこに親分がいるのだから、それも政治だろう。締め付けがあった(だろう)ことを青臭く否定するつもりはない。ただ、選挙の開始当初、自由投票を主張して活発に動いていた若手はその時どうしたのか、河野太郎86票という一回目の議員票の数は、ボスの圧力に沈んだ自民党若手の危うい将来を象徴しているような気がした。

今朝の主流メディアは3A(安倍、麻生、甘利の頭文字)復活と総裁選の裏話を躊躇することなく記事にしている。大半のメディアは 選挙の投票予測ではほぼ全滅だったが、岸田氏の勝因やボスの動向についてはこと細かく取材している。この欄でも取り上げたことのある政治アナリストの大濱崎卓真氏は、投票日前日に「95%岸田氏の勝利」と予測していた。メディアや政治評論家とは違った視点から政治を読む、その読みの深さを印象付けた。それはともかく、3Aの復活は「変わらない、変われない」自民党の現実を浮き彫りにした。「完敗だった」(小泉進次郎)、世論の熱い支持を得ていた小石川連合のあっけない敗北である。彼らはこの先、「権力を獲るために何が必要か」じっくり考え行動する必要ある。そんな気がした。甘利幹事長説がすでに流れている。3Aが権力の中枢に居座る構造がこれからも続く。

岸田新総裁の誕生を受けて野党第1党の枝野幸男代表は次のようにコメントした。「自民党は変わらない、自民党は変われないということを示した結果だった」(朝日新聞)。同感である。ただ、枝野氏をはじめ野党に欠けている視点が一つある、それは自民党の幹部、議員、党員・党友の多くが抱いている安心感だ。「我々が変わらなくても、変われなくても、いまの立憲民主党に政権を奪われることはない」。この安心感をどうやって打ち破るのか。枝野氏にはその視点が欠落している。かくして日本の政界では安倍氏を中心とする保守勢力の基盤が強化された。高市氏という弁舌能力に優れた安倍後継者も堂々と政界中枢で脚光を浴びた。敵基地攻撃能力の強化といったひと昔前までタブー視された防衛政策が、総裁選の中で堂々と議論された。激変する世界の中で、変わらない自民党が本当に変われるのか。変わるとすればどっちを向いて変わるのか。本来穏健中道派に属する岸田氏がこれから問われるのはそこだろう。