Shuli Ren

  • 中国恒大は従業員に自社の金融商品に投資するよう促していた
  • 中国恒大の強引な説得で従業員らの人生も変わってしまった
Illustration: George Wylesol for Bloomberg Businessweek

中国が数カ月にわたり推し進めている「共同富裕」(共に豊かになる)政策は、所得格差の縮小と富裕層の抑え込みを意味している。中国で今盛んに言いはやされているのは株主資本主義ではなく、顧客や従業員、そして地方政府までもが企業に対しどのように事業を行い、利益を分配するかに口を出すステークホルダー(利害関係者)資本主義だ。

  中国共産党の習近平総書記(国家主席)が社会主義の原点回帰を促す前にすでに1人の富豪がそれについて語り、行動を起こしていた。不動産開発会社としては世界最大の負債を抱え、破綻の危機に瀕している中国恒大集団の創業者、許家印氏だ。35年余り前から共産党員である許氏は2018年のスピーチで、スローガンとして共同富裕を使っていた。同氏は医療研究といった名目で多額の寄付を行い、数年にわたり中国で最も慈善事業に貢献していた人物と評価されていた。

  中国恒大が資金不足に陥った際、同社は従業員もステークホルダーになってほしいと考えた。今年に入り中国恒大は従業員に自社の金融商品を購入するよう促し、そうでなければボーナス(賞与)を失うリスクがあると伝えた。中国恒大が販売した住宅の購入者はパニックに陥っているが、今では多数の同社従業員も住宅購入者と共に中国恒大に資金の返還を要求している。

  中国の不動産事業は常に若干のステークホルダー資本主義的な要素があった。開発会社は土地購入のため信託会社から資金を借り入れることが多いのだが、信託会社はそのプロジェクトを担当する開発会社の上級管理職にそうした信託商品の投資家になるよう要請。5年前の現地報道によれば、中国恒大のプロジェクトに投資した信託商品は年利30%の提供が可能だった。

  だが中国恒大が一段と大きくなり、財務の逼迫(ひっぱく)が進むと、こうした「共同投資」は中間管理職に、そして最終的には一般社員にまで広がった。金融商品の条件も悪くなった。中国恒大が売った「理財商品」の利回りは5-10%。加えて、こうした商品は社員が関与している住宅事業と必ずしも関連するものではなかった。つまり、社員は自らが投資した商品の質について何も分からないのだ。

  企業は債務再編時でも普通に営業できる。債権者と株主が話し合いを続けている間、従業員は賃金が支払われ解雇されない限り、働き続けることができる。だが、中国恒大の強引な説得はこうした働き手の人生を変えた。今は中国恒大の債権者でもある社員は強力な銀行に対して不利な状況で、自分の立場さえはっきりしていない。街頭で抗議活動を行うのも無理はない。

  共同富裕の支持者は、企業は従業員とある程度の利益を共有する必要があると言う。立派な考えだが、中国の政策立案当局は債務依存の企業文化にも注意を払うべきだ。中国恒大は顧客や従業員、供給業者を含めあらゆる相手から借金をしている。共同富裕がすぐに「共同貧困」に転じる可能性もある。

(シュリ・レン氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストです)

原題:Evergrande Shows the Risk Lurking in China’s ‘Common Prosperity’(抜粋)