きょう衆議院が解散れる。総選挙は19日に告示、31日に投開票される。争点は何か。岸田首相は「成長と分配を軸とした新しい資本主義の構築」だという。野党第1党の立憲民主党は「1億総中流社会の復活」、「分配なくして成長なし」を目標に掲げる。なんのことはない。同じことを言っている。多少温度差はあるものの、経済政策としては際立った違いはない。要するに争点がはっきりしない。それ以上に自公連立政権が過半数を獲得して政権を維持する筋書きが、すでに出来上がっているような気がする。その筋書きを前提に皆が動いている。責任の過半はそれを許す野党にあるのだろう。立憲の枝野代表は自民党を「変わらない、変われない」と批判するが、野党にもこう着状態に陥った日本の政治状況を打開するだけのパワーは感じられない。おそらく31日まで選挙が盛り上がることはないだろう。
そんな中で気になるのはやっぱり岸田首相の振る舞いだ。選挙に緊張感がないせいか、総裁選で掲げた公約が次々と破棄されている。格差拡大の打開策として公約された金融課税の強化。これが早々に見送られた。これはいわゆる「1億の壁」を是正するための具体策だ。日本は所得が増えるに従って税率が上がる累進税率を採用しているが、所得が1億円を超えるカネ持ちの国民負担率は統計的に見ると下がっている。原因は金利、株や債券の売買にかかる金融資産課税(キャピタルゲイン課税)が資産の多寡にかかわらず一律20%と決められているためだ。所得が5000万円以上ある富裕層にかかる所得税は45%。極端なことを言えば収入が1億円以上ある人は現金でなく株式で分配を受け、それを売却すれば税負担は20%ですむことになる。こうしたことが行われているかどうかはっきりしないが、統計的には収入が1億円を超えると税率が下がっているのである。
これを是正するために岸田氏は総裁戦で金融資産課税の見直しを提起した。だが勝利した直後から株価が暴落。これを受けて同課税の見直しを先送りしたのである。第5次の感染拡大では自宅療養者の死亡が多発した。この防止に向けて健康危機管理庁の創設を打ち出したが、先の所信表明演説にはひと言も盛り込まれなかった。菅前首相のデジタル庁創設とは雲泥の差である。管理庁創設のハードルは決して低くない。とはいえ、岸田氏が自ら特技と称する「聞く耳」が、ハードルの高さを意識した怖気に代わったとすれば、首相としての資質に関わる重大問題になる。このほか安倍、麻生、甘利の3Aに対する忖度が至るところに」見え隠れする。新しい資本主義像もこれから有識者を集めて検討するとのことだ。岸田氏は総裁選に向けて準備は万端だった。それが総裁になった途端に、いきなり足取りがたどたどしくなった。本当にこれで選挙に支障はないのか。国民の声を無視しても勝てるという“油断”が、これから自民党を苦しめることになるような気がする。
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