岸田首相はさまざまな構想をぶち上げている。そんな中で個人的に関心を持っているのは経済安全保障だ。施政方針演説では外交・防衛の基本方針である「国家安全保障戦略」を見直し、経済安全保障を重要課題に位置付けると表明している。それを受けて二階派の小林鷹之氏が経済安全保障担当の特命大臣に任命された。東大法学部卒、ハーバード大学卒のエリートだ。学歴だけで判断すべきではないが、岸田首相好みの秀才であることは間違いないだろう。経済力だけを頼りに世界と互角に渡り合ってきた日本である。その経済力がみるも無残な形で凋落している。安倍・菅政権ではアベノミクスをベースにデフレからの脱却を狙った。だが、志は半ば。日本を取り巻く状況はほとんど変わっていない。そこに登場した岸田氏は「成長と分配」を重視する新しい資本主義を提唱している。
新しい資本主義は経済成長で潤った富を手厚く分配し、消費の拡大から設備投資の拡大へと波及する好循環を目指そうという考え方のようだ。考え方それ自体に異論はないが、アベノミクスが目指した成長とベースアップの好循環とどこが違うのか、いまいちはっきりしない。違いがあるとすれば経済安保だろう。安倍・菅政権では外交・防衛の基本方針を司る「国家安全保障局(NSS)」の中に「経済班」が設置され、ここが経済安全保障を司ってきた。岸田政権はこれを独立させて経済安全保障担当大臣を置いたのだが、NSSの経済班が廃止されたわけではない。1頭が2頭になったというだけのことである。この関係が気になっていたのだが、14日にメディアのインタビューを受けた小林氏は「経済班と連携する」(日経web版)と話している。官僚同士による縄張り争いが怒らないという保証はないのだが、とりあえずは仲良くやるということのようだ。
競合するのはNSSだけではない。自民党には政務調査会の中に「新国際秩序創造戦略本部」という組織があって、日本を取り巻く経済安全保障問題について検討している。昨年12月には「『経済安全保障戦略』に向けて」と題したレポートも取りまとめている。日経新聞によると小林大臣は、「『党の提言も含めて経済安保の国家安保戦略の位置づけは積極的に議論していきたい』と述べるにとどめた」と書いている。最後の「述べるにとどめた」というくだりがちょっと気になる。岸田首相は昨日の記者会見で台湾のTSMCが熊本に工場を新設することに触れ、「日本の半導体産業の不可欠性と自律性が向上し、経済安全保障に大きく寄与することが期待される」と述べている。半導体が経済戦略の基軸であることに誰も異論はないだろう。問題は経済戦略に関わる船頭が多いことだ。「聞く人」である岸田氏は調整できるだろうか、瑣末なことが気になった。
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