「これって、本当だろうか」、読みながら疑いたくなる記事にお目にかかった。ブルームバーグが未明に配信した「ウォール街のインフレ見通し、全て誤り-FRBスタッフがメッセージ」と題した記事だ。ウォール街を擁護しようというつもりはまったくない。今年の春先から繰り広げられてきたウォール街とFRBの仁義なき戦いは、個人的にはウォール街に軍配が上がったと認識している。だがこの記事はそうした見方を否定している。戦いの対象になったのはインフレ。ウォール街はインフレが進んでいると主張、これに対してFRBは「一時的な現象」と否定し続けてきた。一時的という見方はFRBだけではない。前FRB議長のイエレン氏が率いる財務省やECB議長のラガルド氏、経済学者をはじめとした著名知識人もこの見解に同調してきた。だが、インフレの足音ここにきて一段と高まっている。

そんな中でFRBのスタッフは、「ウォール街の見通しは全て誤りだ」と改めて主張しているというのだ。記事は「博士号を持つ400人余りのFRBエコノミストはインフレについて、政策当局者と米市民に『落ち着け』というメッセージを発している」と書き出す。半導体不足、天然ガスの急騰、頻発する停電という事態を受けてウォール街はインフレ予測を一段と引き上げている。こんな状況の中で博士号を持つスタッフたちは「来年にインフレ率が2%未満に戻ると予想している」というのだ。これが事実ならインフレはまさに「一時的」ということになる。知識もデータもない一般庶民は、これを読んではたと困るだろう。ウォール街が正しいのか、FRBスタッフに分があるのか?どちらになろうと窮迫気味の庶民の生活にはとりあえずあまり関係がないのだが、個人的には「博士号を持つ400人余り」の見解が気になる。今更ながら“権威”に弱い自分に嫌気が差す。

過去の例をみるとスタッフ予想は必ずしも当たる確率が高いというわけではないようだ。それでもセントルイス連銀のエコノミスト、マイケル・オウヤン氏によると、「FRBスタッフ予測は大抵の場合、ウォール街のコンセンサス予測よりも正確だ」と指摘する。同氏は19年にFRBスタッフ予測が民間セクターよりも正確だったとのリポートを共同著者としてまとめた人物だ。13日に発表されたFOMC議事要旨には、「供給問題を原因とした消費者物価の上昇は一部巻き戻され、輸入価格は急速に低下すると予想される」とあるそうだ。「従ってPCE価格指数の上昇率は2022年に2%をやや下回る水準へと低下する見通しだ」としている。博士号かマーケットの直感か、どちらに軍配があがるのだろう。来年の年末に検証したら面白いだろうという気がするが、果たしてそれまでこのテーマを覚えていられるかどうか、自信はない。