来年11月に行われる米連邦議会の中間選挙の前哨戦となったバージニア州知事選が2日投開票された。同州はブルーステイツの一つで、民主党がこれまで圧倒的な強さを誇ってきた。大統領選挙ではバイデン大統領が大差でトランプ氏に勝利した。その州の知事選。民主党の現職のテリー・マコーリフ知事が勝って当たり前と見られていたが、共和党候補のグレン・ヤンキン氏が終盤追い上げ逆転勝利した。州知事選といえばそれまでだが、民主党はバイデン大統領以下幹部が大挙して応援に駆けつけたこともあり、敗北の痛手は大きい。この選挙でトランプ氏の影響力はあったのか?日経新聞によると「ヤンキン氏は共和党支持層で根強い人気があるトランプ氏を前面に出すのを控え、穏健派を含む無党派層を取り込む戦略をとった」とあるから、必ずしもトランプ氏が勝利に貢献したわけではないようだ。だが、共和党内に依然として強い影響力を残しているトランプ氏だ。中間選挙、再来年の大統領選挙に向けて弾みがつくことは間違いない。

今回の勝利、トランプ氏はどう捉えているのか。ロイターによるとトランプ氏は、ヤンキン氏の当選は自身の功績だと主張する姿勢をうかがわせているという。その根拠が声明だ。そこには「ヤンキン氏に投票してくれた私の(支持)基盤に感謝したい。あなた方がいなければ、彼は勝利できなかっただろう」とある。いかにもトランプ氏らしい言い回しだ。反トランプ陣営から見れば反吐が出るほどいやらしい言い回しだろう。だが、親トランプ派はこれを聞きたいのだ。かくして米国内の保守対革新の対立は深刻化する。アメリカの分断は世界にとっても不幸なことだ。ところでこの選挙に対する日本メディアの反応はどうか。日経新聞をはじめ多くのメディアがバージニア州知事選挙の結果を淡々と伝えたのに対し、朝日と読売はやや違った反応をみせている。けさの朝日一面は「反トランプ派 追い落とし」、「弾劾賛成の共和党議員票的『あと8人だ』」、「米中間選挙まで1年」の見出しでトランプ氏を批判する記事をかかげている。トランプ氏の攻撃の対象はリズ・チェイニー共和党下院議員。チェイニー元副大統領の娘だ。

リズ氏はトランプ大統領弾劾に賛成票を投じた共和党議員のひとり。朝日は党内反対派を攻撃してやまないトランプ氏の姿勢を浮かび上がらせたいのだろう。バージニア州選挙で共和党候補が勝利した事実は二面の記事の中でサラッと触れているだけ。対照的なのは読売だ。バージニア州の知事選挙にひっかけてトランプ大統領がいまだに主張している「盗まれた選挙」のその後を特集している。朝日はこの件についていまだに「根拠のない主張」という表現を使っている。日米の主流派メディアは判で押したようにこの表現を使う。そんな中で読売は「トランプ前大統領が繰り返す『不正選挙だった』との主張は今も多くの支持者に浸透し、共和党は一部の州で選挙結果の再集計を求め続けている」として、その実態を追跡取材している。一向に支持率が上がらないバイデン大統領と、ジワジワと支持率を拡大している共和党。大統領選挙に向けて同紙は主流メディアの岩盤ともいうべき「反トランプ報道」から半歩離脱しようとしているのかもしれない。ポストコロナに向けて政治家もメディアも次を見据えた模索が始まっているのだろう。