バイデン政権の最重要法案の一つであるインフラ投資法案が大統領の署名を経て成立した。署名式で大統領は「法案の可決は民主党と共和党が一緒になって結果を出すことができることを示している」と強調、法案は「米国を再建させるためのブルーカラーにとっての青写真だ」と述べた。道路や橋、交通機関など米国のインフラは老朽化が進んでいる。民主党政権だけでなく米国の一般庶民にとっても、インフラ整備は喫緊の課題になっていた。いろいろな経緯があったとしても、まずはご同慶の至りというのが率直な気持ちだ。ただ、気になることもある。このところの米国経済は各種の物価上昇が著しい。「インフレ抑制で手をこまねいていると米国は大変なことになる」、サマーズ元財務長官が頻繁に発している“ご託宣”が日増しに現実味を帯びていることだ。
世界中がジャパナイゼーション(日本化)の影に怯えてきた。ブルームバーグの表現を借りれば、「先週は『経済のジャパナイゼーション(日本化)』、今週は『トランプ氏の返り咲き』。インフレ抑制で手をこまねいていると米国は大変なことになると、サマーズ元米財務長官の表現は日を追うごとに緊迫感を増しています。10月の米消費者物価指数(CPI)がもたらした衝撃に続いて、この日は石炭価格の急上昇が明らかになりました。電気代など家計への圧迫が2024年の大統領選挙まで続けば、サマーズ氏の警告が現実味を帯びてくるかもしれません」。ブルームバーグも反トランプだ。迫り来るインフレの足音は、メディアにとっては悪夢のようなトランプ再来の恐怖を呼び起こすのだろう。気候温暖化阻止に絡むグリーンフレーションも始まっている。世界経済に異変が起きそうな予兆、ないわけではない。
そんな中で日銀の黒田総裁はきのう名古屋を訪れ、東海地方の経済界幹部と懇談した。その席で同総裁は「強力な金融緩和を粘り強く続けていく局面にあることを改めて強調しておきたい」と語っている。世界中の中央銀行がインフレに備えて金融を引き締め気味にしようとしている。そんな中でジャパナイゼーションの権化ともいうべき日本の中央銀行は相変わらず、「強力な金融緩和」を粘り強く続ける姿勢を示している。財務省の矢野事務次官が先月文藝春秋に発表した「バラマキ論」に対する警鐘といい、日銀の金融緩和論といい、なんとなく古色蒼然としている気がする。岸田首相が打ち出した「令和の所得倍増論」はいつの間にか消えてしまった。日本の経済政策につきまとっている古めかしさ、この古めかしさが日本経済の足を引っ張っている気がして仕方がない。
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