ゼロカーボンの実現に向けて世界中が急激に動き始めた。13日に終了したCOP26では、本会議とは別に場外で関係国や機関によるさまざまな動きが見られた。もっとも大きなサプライズは米国と中国が協力することで合意したことだろう。貿易摩擦や安全保障で対立する両国が、気候変動問題では今後10年協力し合うというのだ。これに触発されたわけではないと思うが、世界の自動車メーカーも40年までに世界で販売する新車をすべて「ゼロエミッション(二酸化炭素排出ゼロ)化」するとの声明に署名した。署名したのは米ゼネラル・モーターズとフォード・モーター、スウェーデンのボルボ、独ダイムラーの子会社であるメルセデス・ベンツなど自動車メーカー大手6社。世界最大の販売台数を競っているトヨタとフォルクスワーゲンは署名しなかった。

そのトヨタに関する記事が本日付でロイターに掲載されている。「アングル:内燃機関で脱炭素、トヨタが挑む水素エンジンの現実味」というタイトルだ。ゼロカーボンに向けた世界の趨勢は電気自動車(EV)だ。だがトヨタはと同時に水素自動車を同時並行的に開発する体制をとっている。モーターを使うエンジンに比べると、ガソリンの代わりに水素を燃料として使う水素自動車は、現在使っているエンジンをそのまま使えるというメリットがある。日本の自動車関連産業の就業人口は500万人を超える。すべての自動車をEVに変えると、この500万人の就労問題が発生する。それを避けると同時に、エンジンで培われた技術をそのまま、あるいはもっと先鋭化してゼロカーボンの時代にも使おうという発想だ。豊田章男社長は「敵は炭素であり、内燃機関ではない。1つの技術にこだわるのではなく、すでに持っている技術を活用していくべきだ」と主張する。

話はそれるが経済用語に「リープフロッグ現象」というのがある。いわゆる“カエル跳び”だ。階段を一段一段登るのではなく、二段跳び三段跳びと一気に駆け上がる手法をいう。ハイブリッドで遅れをとった欧米の自動車メーカーは、ゼロカーボンにかこつけて一気に電気自動車にリープフロッグしようとしている。そんな気がしないこともない。それはそれとして、電気自動車への移行も再生可能エネルギーだけで全ての需要を賄えるのか、不透明な部分が多々ある。水素自動車も水素の生産や流通の確保に多くの難問を抱えている。どちらも前途多難である。だが、ゼロカーボンへの道は一筋だけではない。豊田社長は「カーボンニュートラルとは、選択肢を1つに絞ることではなく、選択肢を広げておくことだ」と強調する。多様化の時代だ。選択肢も多様であるべきだ。