新型コロナのパンデミックに新たな変異種が加わった。WHOはこの変異種を「オミクロン」と命名した。それ以前の呼称は「B.1.1.529」。この変異種が公になったのは先週の25日。南アフリカの国立伝染病研究所が確認し、発表した。同国、および隣国のボツアナ、イスラエル、香港などで確認された。イスラエルと香港の感染者2人はいずれもワクチン接種済みだった。これを受けて新型変異種の脅威はあっという間に世界中に広がり、金融マーケットがまず洗礼を受けた。NYダウは26日1000ドル近く暴落。金利は急騰し値上がりが続いていた石油は暴落した。価格を抑えるために計画していたバイデン大統領主導の協調的な石油備蓄の放出は有名無実と化し、FRBが推進していたテーパリングは計画の見直しを迫られる可能性に直面した。各国は競って南アなど感染国からの入国規制を導入、パンデミック対策は発覚当初に逆戻りするかのような雰囲気。まさにオミクロン狂想曲の様相を強めた。

パンデミックの下で“未知なるウイルス”に対する恐怖が世界中を支配した。それと同じことが再び起こるのではないか、新たな変異種の発見は振り出しへの逆戻りという心理的な圧迫感を増幅しながら、世界中を一気に奈落の底に突き落とした。ファイザー、ビオンテック、モデルナといったワクチンメーカーは直ちにコメントを発表したが、「データーの解析に数週間かかる」との見通しを表明、これが不安を増幅する結果になったのではないか。さらに感染症専門家は新種にはスパイクタンパック質の変異が数多く見られること、感染があっという間に広がっていることなど一段と強い感染力を備えている可能性を指摘した。不安が不安を呼ぶ構造の中で、マーケットでは売りが売りを呼ぶセリングクライマックスが発生。心理的な不安感を煽り立てた。かくして25日にから先週末にかけての世界中がオミクロン一色に塗りつぶされた。

先行きがどうなるかわからない。今週以降の感染状況が当面最大の注目点ということになる。そんな中で米モデルナのポール・バートン最高医療責任者(CMO)は28日、以下のような発言をした。「オミクロンが既存のワクチンをかいくぐる可能性があると指摘した上で、その場合は改良したワクチンを来年の早い時期に提供できるとの見通しを示した」(ブルームバーグ)という。その上で「メッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンとモデルナのプラットフォームの優れた点は、非常に迅速に行動できることだ」と協調する。心強い限りだ。それでも「来年の早い時期とはいつか」「それまでの間はどうすればいいのか」期待と不安は入り混じって交錯する。医学は進歩している。だが、人類の防御システムは一向に進歩しない。いまだにマスクなしの三密が世界の至る所で見受けられる。オミクロンは行動変容が追いつかない人類の弱点を見透かしているのかもしれない。