長らく続いてきたゼロ金利時代が終わりに近づいたようだ。米連邦準備制度理事会が14日、15日に開いたFOMC(公開市場委員会)でテーパリングの加速を決定すると同時に、来年には利上げの可能性が強いことを公にした。テーパリングの加速は予想の範囲内だが、利上げの繰上げ実施は予想を大きく上回る決断だった。今年のはじめ「インフレは一時的現象」と主張していたパウエル議長、1〜2カ月前までこの見解を維持していた。その議長が物価急騰の実体経済に合わせて自らの見解を急旋回させた。インフレ・ハト派からゴリゴリのタカ派への変身は一気呵成だった。大胆かつスピード感に溢れた変身だった。評価は分かれるだろう。個人的には実体経済に合わせて臨機応変、かつ、柔軟に対応したと思う。パウエル氏は実体経済の変化に合わせたにすぎない。

翻って日本。アベノミクスの誘導弾として8年前に導入された超金融緩和がいまも続いている。イールドカーブ・コントロール付き量的質的金融緩和という手法を使った金融緩和策だ。この政策に実効性があるのかないのか、素人にはよくわからない。日銀が大量発行された国債を市中から買い取り、株式投信(ETF)を買って株価を下支えしている。いってみれば市場機能弱体化策だ。異例の手段に頼りながら、金利の上昇を抑え、株価の暴落を防いでいる。この政策が個人消費をどれだけ刺激しているか、正直いってよくわからない。これを評価するエコノミストもいなければ、批判する論者もいない。まるで価格が上下する市場経済の機能を抑え込むかのように、何も起こらない日常が連綿と続いている。

原油価格が跳ね上がっても、半導体の値段が急騰しても、自動車メーカーが生産を一時的に停止しても、日本経済全体は何ごともなかったかのように淡々と流れていく。もちろん市中金利が上昇することもない。岸田首相がどんなに配分政策を重視すると言い張っても、来年の春闘でベアが大幅に上がることもないだろう。要するに日本経済は押しても引いても動かないのだ。米国経済はパウエル議長が動かしているわけではない。実体経済の動きに議長は追随しているにすぎない。日本経済は首相が指示しても、日銀総裁がゼロ金利維持で“意地”をみせても動かない。バブル崩壊のあと為政者が寄ってたかってそういう経済を作り上げてきた。市場機能を封殺して波風を立てない経済。シュンペータの言う「静的経済」だ。市場メカニズムを復活させるために何が必要か。誰もわからない。神の手は死んだ。そこが最大の問題だ。