バイデン大統領がインフラ整備と同時に重視しているBuild Back Better (より良い再建)を実現するための歳出法案がピンチに陥った。ロイターによると、米民主党穏健派のジョー・マンチン上院議員は20日、気候変動・社会保障関連歳出法案「ビルド・バック・ベター(よりよき再建)」について、ホワイトハウスのスタッフが「容認しがたい」ことを行ったため不支持を表明するに至ったと述べた、と伝えた。米上院議会は現在民主党が50人、共和党50人の構成。共和党は全会一致してこの法案に反対しているため、民主党議員のうち一人でも反対に回れば法案は成立しない。そこに立ち塞がっているのがマンチン議員というわけだ。同氏は民主党ながら中道穏健派で、保守層からも政治献金を受けているといわれる財政再建論者だ。政治的には大統領に近い存在だが、左右が分裂している党内だけではなく米議会のキャスティング・ボートをたった一人で握ってしまった。
バイデン大統領はこれまで数々の譲歩を強いられてきた。健全財政論者のマンチン氏の要求を受け入れ、当初は3兆5000億ドル規模だった予算総額はいつのまにか半分の1兆7500億ドルに半減した。直近では両者の合意が間近いとの報道もあった。それが一転、マンチン氏はきのう突然、「(同法案を)支持することはできない」(ロイター)と表明した。理由は定かではないが、「つまりは(ホワイトハウスの)スタッフだった。大統領ではなく、スタッフだ。全く容認しがたいことを行ったと(マンチン氏は)語った」とロイターは伝えている。これが大統領にとって致命的な反対の表明かどうかもよくわからない。もう一段の譲歩を引き出すための政治的な駆け引きかもしれない。いずれにしてもマンチン議員の発言力はどうしてここまで強力になったのだろう。その背景は何か。
一つは米経済のインフレ化、二つ目が米議会の伯仲、そして三つ目が大統領の調整能力だろう。予算の規模が半分になったとはえ、巨額の財政支出法案が可決されればインフレ懸念に火がつく可能性がある。これまで米国の主要なテーマはデフレ回避だった。それがパンデミックによって比重がインフレ回避に移行してしまった。この変化がマンチン氏に有利に働いた。もう一つは与野党の伯仲だろう。民主党と共和党が議席を半分ずつ分けあった結果、議員一人一人の投票行動が限りなく重みを増した。マンチン議員はこの“重み”を存分に活用している。こうなると大統領の調整能力など意味をなさなくなる。与党が安定多数を確保している日本の国会は、議員一人一人の発言力がその分小さくなっている。どちらがいいか一概にはいえないが、国会の存在感を高めるためには“伯仲”の方がいいかもしれない。
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