岸田総理の看板政策ともいうべき「新しい資本主義」、成長と還元を柱にしているがわかったようで今ひとつ何がしたいのかわからない。そんな中で最近目につくのは「投資」という言葉だ。臨時国会終了後に行われた記者会見で総理は「賃上げは投資」と言い切った。この発想は新しい気がする。個人的にもこの欄で「賃上げは投資と考えるべき」といった趣旨の原稿を書いた。賃上げに限らない。半導体、教育、デジタル化など岸田政権は様々投資に予算を注ぎ込もうとしている。投資が「新しい資本主義」の枠組みを引っ張るということだろう。歴代内閣も同じようなことを看板政策に掲げていた。投資に重点を置くといっても、過去の政権とどこが違うのか。こちらも今ひとつよくわからない。わからないなりに注目していきたいと思う。

まず、臨時国会後の記者会見の発言を振りかって見よう。「新しい資本主義」のもと「デジタルやカーボンをキーワードとして、大きく変化するこの経済社会において、新たな価値を生み出すための鍵である人への投資を強化してまいります。国だけでメニューを作って支援を行うというこれまでの手法は、明らかに限界に来ています。政策の企画立案段階から民間の発想を取り入れることといたします。非正規の方を含め、約100万人の方の能力開発、再就職、転職によるステップアップを支援する際に、働く従業員の方、企業経営に携わる方など多くの国民の皆さんの声を伺った上で制度設計を行う、新たなやり方にチャレンジをしてまいります」(官邸HPより)。新しい資本主義の構想は岸田総理一人の発案ではないだろう。起草から肉付けまで“チーム岸田”が関わっているとみる。幅広く国民の叡智を結集する。政策立案のプロセスはとりあえず良し。

その上で「分配を成長への道筋としてど真ん中に位置づけるということです」と宣言する。「分配を行うことで、成長を支える新たな需要を創出し、次の成長につなげます」と説明。そして、ここからが重要なポイントになるが、総理は「賃上げを通じた分配は、コストではなく、未来への投資です。きちんと賃金を支払うことは、企業の持続的な価値創造の基盤になります。この点を企業の株主にも理解してもらうことが必要です。人の価値を企業開示の中で可視化するため、来年度、非財務情報の見える化のルールを策定いたします」。ベースアップは「コストではなく、未来への投資」。こう言い切るところに岸田総理の発想の新しさがある。投資こそが日本経済復活の鍵だ。人件費を抑制し投資を控え内部留保をかつてない規模に積み上げた企業に、総理の言葉は通じるのだろうか。それを考えた上だろう、「人の価値を可視化する」ともいう。「新しい資本主義」の注目ポイントだ。