けさニュースを見て驚いた。ウクライナのゼレンスキー大統領が怒っているのだ。何に対して。米国のバイデン大統領だ。同大統領は19日(日本時間20日)、就任1周年を期して記者会見を行った。その中で緊迫の度が増しているウクライナ情勢について、「本格的に軍事侵攻すれば大きな代償を払うことになる」とロシアをけん制すると同時に、「小規模な侵攻」であれば、「代償も小規模にとどまる可能性があると示唆した」というのだ。ロイターが伝えている。これを聞いてゼレンスキー大統領は烈火の如く怒った。そして言った。「ささいな侵攻も小国も存在しないと、大国に再認識してもらいたい。愛する人を失うことによるささいな悲痛が存在しないのと同様だ」。その通りだ。現場にいたわけではないが、ゼレンスキー氏の怒りはまじかで見ていたかのごとく理解できる。バイデン大統領の“口舌”はあまりにも軽い。

ホワイトハウスは直後から大混乱に陥った。ロイターによるとサキ報道官はFOXニュースとのインタビューで、「ロシアがウクライナに軍部隊を移動させれば、米国は侵攻と見なし対応する」と強調した。「ウクライナの加盟を認めるべきではない」とロシアから通告されているNATOも大統領発言の修正に追われた。ストルテンベルグ事務総長は20日、「バイデン氏の発言はロシアのウクライナ侵攻を認めるものではない」と述べ、ロシアを強く牽制した。事務総長の発言の論拠がどこにあるかわからない。バイデン発言を素直に読めば、「小規模侵攻なら許す」という理解以外にどんな解釈ができるのだろうか。大統領の軽はずみな発言は、あらゆるところに弊害をもたらしている。当のバイデン大統領も20日、ロシア軍部隊が国境を超えてウクライナに入れば「侵攻とみなすことをプーチン大統領に明確にする」と釈明せざるを得なかった。

大統領の舌禍事件はこれまで数多く報道されている。もう一つのウィークポイントである認知症問題は最近あまり報道されなくなった。改善しているのだろうか。それにしても就任1周年を記念して開かれた記者会見で飛び出した今回の舌禍事件、ウクライナ情勢が緊迫の度を増している真っ只中での出来事だけに、口舌の軽さでは済まされないインパクトがあった。ウクライナのNATO非加盟と同時にロシアは米国にもう一つの要求を突きつけている。「ウクライナに米国のミサイルを配置しないこと」だ。これに対してバイデン大統領は19日の記者会見で、「どうにか解決できる余地がある」と柔軟な姿勢を示した。大統領はこころの奥底ではロシアとの妥協を望んでいる。「小さな侵攻」は単なる舌禍事件ではない。“弱腰バイデン”の本音が滲みでたのだ。けさのニュースを見ながらなんとなくそんな気がした。